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未来編


上空の空気は凍えている。
ぎりぎりまでこじ開けた眼が乾燥から涙を流すのを感じながら周りを見渡していた桔梗は並盛のはずれの方にある山中から伸びる紐のような物体を視界に入れ、目を細めた。


「やはりあれは…」


隣にいたブルーベルと共に横たわる木の幹に着地し、周りを見渡す。
地面に散らばっていた砂がさらさらと集まり、次第に人の形を取る。


「びくっ」


驚いたブルーベルが咄嗟に桔梗のコートを握った。
そんなブルーベルの頭をなでながら桔梗はトリカブトに話しかける。


「御苦労ですトリカブト。 守ってくれていたのですね」


前方にある膜のような物に包まれた白蘭の姿を一瞥し、立ち上がる。
ほぉー、とでもいいそうな顔をしながらブルーベルは翼のような物が生えた白蘭と、そそれを覆う膜を見つめながら口を開く。


「これが瞑想?」
「ブルーベル邪魔をしてはいけない向こうへ行きましょう」
「…すごいね…はじめて見た」
「本来は本部の最深部での儀式ですし最近は行われていませんからね」
「あーやってパラレルワールドをのぞくんだね」

そのブルーベルの言葉に桔梗は心配そうに顔を曇らせた。
それは紛れもなく、主を心配する心から来た表情だった。

「実際は入江正一が言っていた程簡単なものではありません…無理をなさらなければいいのだが…」


そこまでいってはた、と桔梗は思い出したようにトリカブトに話しかける。


「ところでトリカブト、トウキは?」

トリカブトは無言で森の奥深くを指さす。
それと同時にガサ、と茂みが音をたてた。
出てきた人物の持つナイフは血にまみれ、着ている白い編み上げブーツは足首辺りまでが血で濡れていた。


『おや…桔梗様にブルーベル様。健康状態がよろしいようで、十全にございます』


そう言いながらトウキは血がべっとりと付いたナイフをぽい、と投げ捨てる。
ブルーベルはトウキの近くに駆け寄り、頬に付いた血を拭った。
ありがとうございます、と呟きながらトウキはブルーベルの頭をなでる。
幸せそうに笑うブルーベルを見てからトウキは白蘭を一瞥した。


…まだ終わらないのか。そうトウキが心中で思った途端水しぶきのような物が上がった。


タイミングが良かったようですね、と呟きながらトウキは白蘭の元に寄っていく。


「………見つけた…」


呟く白蘭の息は荒く、額には脂汗が浮かんでいる。
瞼の奥の紫水晶のような瞳は、どこか虚空を見据えていた。


「川平という不動産屋だ」


トウキはポケットからハンカチを取り出しながらふぅ、とため息を吐いた。



  発見
(まったく…余計な事を)




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