「あーもう疲れたよー」
「うるせー黙ってやりがれ!」
「いだっ!本気で蹴る事ないだろ!?」
「てめぇが宿題も終わってない分際で文句なんか言いやがるからだぞ。黙ってやれ、ダメツナ。」

よく晴れた休日の午後。沢田家の小さな庭でピクニックをしながら遊んでいるランボとイーピン、そして奈々の笑い声が楽しそうに響く一方。少々バイオレンスな家庭教師リボーンによって朝から部屋に缶詰にされているダメツナこと沢田綱吉は、相変わらずスパルタのリボーンに深い溜め息をこぼしていた。本来は休める筈の休日にも関わらず勉強漬けにされ、外から聞こえてくる笑い声はもはや羨ましいを通り越して恨めしい。そんな綱吉の心境は言わずもがなリボーンにも伝わっていたようで、リボーンはやれやれといった様子で再び口を開いた。

「今日は忙しいんだ。こんな宿題で手間取ってる場合じゃねぇんだぞ。」
「忙しいって…お前どっか出かけるのか?」
「ちげぇ。客がくんだ…イタリアから、ビックな客がな。」

綱吉の問いかけに対し、リボーンは不敵な笑みを浮かべながら答えた。対して綱吉はというと、リボーンが言った"イタリアから"という言葉を聞いてなにかを察したように顔を青くする。イタリアといえば、リボーンの出身地。イタリアといえばマフィア。そしてイタリアといえば…ボンゴレファミリー。

「ま、まさかそれって、またマフィア関連って事!?もう勘弁してくれよ!リング争奪戦が終わって、ようやく平和な日々が戻って来たのに!!」
「何馬鹿な事言ってんだ。お前はリング争奪戦でザンザスに勝利して大空のリングを手に入れたからこそ、正式にボンゴレファミリーの後継者になったんだぞ。」
「確かにそうかもしれないけど!オレはマフィアのボスなんて絶対にならないからな!!」

リボーンの正論に対して綱吉がもう何度口にしたのかわからないお決まりの台詞を返した、その時。綱吉の平和な日々を崩すかのように、沢田家のインターフォン音が鳴り響いた。

「来たな…あの女が。」
「お、女?って…じゃあイタリアから来たヤバい人が、今オレん家の前にいるって事!?」

先日リング争奪戦でザンザスを倒した男とは思えないほど情けなく動揺している綱吉に対し、リボーンはむしろ楽しげに見える。その口振りからして、どうやら来客の正体を知っているようだ。

「あいつは怒らすとおっかねぇからな。ちゃんとエスコートしてやれ。」
「ええっ!?そんなの無理だって!」
「つべこべ言ってねぇでさっさと行け!」

相変わらず綱吉の反論に聞く耳を持たないリボーンは、その小さな足が繰り出したとはとても思えない強力な回し蹴りを綱吉にヒットさせた。リボーンの凄まじい蹴りに直撃した綱吉は部屋の扉の外へと吹っ飛ばされ、その勢いで階段を転げ落ちる。

「い、いってぇ…」

普通の人間ならば軽く気を失ってしまいそうな仕打ちだが、そこはザンザスをも倒したボンゴレファミリーの後継者。凄まじい痛みに悶えながらもなんとか起き上がった。そして、そのまま顔を上げた綱吉の瞳に見慣れない女性の姿が映る。艶やかな黒髪を背に揺らし、頭にはポーラハット。モダンな黒いスーツは細身の彼女によく似合っていた。整った顔は気品ある顔立ちで、極めつけは炎のように燃える紅い瞳。その色は先日戦ったばかりの男の色を思い起こさせ、綱吉は思わず女性から目を反らした。一方、女性は足元で這いつくばっている綱吉を見下ろして眉を寄せており、大層呆れている様子で後ろを振り返る。

「ちょっと…まさか間違えたんじゃないでしょうね。本当にこの子なの?」
「ああそうだぜ。こいつがオレの弟分で、ボンゴレファミリーの次期ボス…10代目沢田綱吉だ。」

女性が振り返った先にいたのは、綱吉もよく知っている男…ディーノだった。遅れて沢田家の扉から顔を出したディーノはなにやら傷だらけで、綱吉は目を見開く。

「ディーノさん!?どうしたんですか?その怪我!」
「なんか今日は異様に転ぶんだよなー」

ディーノの言葉を聞いた綱吉はドジのせいでできた怪我だったのかといつものように苦笑を浮かべ、女性はやれやれと首を振っている。

「全く…あなたのドジがなかったら、もう少し早く着いたと思うんだけど。」
「あはは…すまねぇな。」
「別にいいわ。帰りは一人で帰った方がいいっと学習できたもの。」

どうやらディーノの傍らにいる女性はここに来るまでディーノのドジに付き合わされ、お疲れらしい。同じくディーノのドジで散々な目に合った経験のある綱吉は、同情するように女性を見つめた。

「ところでディーノさん、こちらの女性は…」
「やっと来たな。ディーノ、それからなまえ。」

未だ続いている鈍い痛みに堪えながら本題に入ろうとした綱吉だったが、そんな綱吉の声をいつの間にか背後にいたリボーンが遮った。リボーンになまえと呼ばれた女はリボーンに目をやると僅かに目を細め、微笑を浮かべる。

「そういえば…今のあなたの仕事場はここだったわね。久しぶり、リボーン。」
「ああ。お前は相変わらず忙しいみてぇだな。」
「そうね。今回も9代目の命令じゃなかったら、こんな事している場合じゃないもの。」

まるで皮肉のように放たれた言葉に対し、リボーンは相変わらず得意げににやりと笑っている。一方、まるで話についていけていない綱吉は、助けを求めるように先程遮られてしまった疑問をディーノに尋ねた。

「ディ…ディーノさん、どなたなんですか?この人は。リボーンとも知り合いみたいだし…」
「ああ。こいつはな、お前もよく知ってるやつの妹だぞ。」
「妹?」

"妹"という情報を聞いた綱吉は、自分が知っている人物の中で目の前の女性と重なる人物を探るように考え込む。彼女と同じ黒髪といえばまず浮かぶのは山本だが、彼女は見たところ外人だ。イタリアといえば獄寺が思い浮かんだが、獄寺の姉はビアンキ一人だと聞いている。よく考えると、彼女のようなどこかツンとした美女と重なる人物は綱吉の"仲間"にはいないということに気がついた。しかし…"仲間"という枠を越えれば、一人だけ思い当たる人物がいた。彼女の燃えるような紅い色の瞳は一目見ただけで引き込まれ、圧倒されるような。不思議光が灯っている。あまり考えたくなかったが、綱吉はごくりと唾を飲み込むと、意を決して口を開いた。

「ま、まさかとは思うんですけど、もしかして…」

綱吉の震える声を聞いたリボーンは、どうやら綱吉が目の前の女性と一人の男が繋がったことに気がついたようだ。一方女性の方も綱吉のような反応を目にするのは慣れているようで、苦笑を浮かべながら口を開く。

「そうよ。私は先日リング争奪戦であなたに破れた暗殺部隊ヴァリアーのボスであり、9代目の義理の息子…ザンザスの妹。まあ、私はあのクソ兄貴みたいに誰彼構わずぶっ放すことはしないわ。よろしくね…?綱吉君。」

さらりと自己紹介をしたなまえは、まるで小悪魔のように首を傾げながら綱吉の顔を覗き込んだ。一方綱吉はと言うと、目の前にいる女があのザンザスの妹だと知って様々な葛藤があるのか。あからさまに目が泳いでいる。

「あ…よ、よろしくお願いします!」

しかし人のいい綱吉はなまえに向けて深々とお辞儀をすると、立ち話もなんですから、といつもの来客の時と同じように部屋へと案内する。そんな綱吉の後ろ姿を見つめながら、なまえは考えこむようにそっと目を細めた。

もう二度と来ない春を訪ねて
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -