「…一体何だったのよ。今回の視察は。」

深すぎる溜め息と共に、なまえはようやく執務室のソファーになだれ込んだ。9代目の命令で日本へと赴き、命令通り沢田綱吉に会った後、立て込んでいる仕事のために急ぎ足で空港へと戻り、帰りの飛行機の中ではひたすら持ってきておいた書類を捌いた。そしてそのまま仕事漬けでヴァリアーのイタリア拠点へと帰宅し、現在に至る。なまえと帰りを共にしたディーノは多忙ななまえに放って置かれてすっかりしょげていたが、今のなまえにはそんなディーノに構っている暇はないのだ。

「う゛お゛ぉい!!随分遅いお帰りじゃねぇかぁあ!!」

ソファーに沈んでいるなまえに少しも気を使うことなく乱暴に開かれた扉と共に、騒音にも聞こえる凄まじい声が部屋の中に響き渡った。そのあまりの音に対しなまえはもはや慣れたもののように耳を塞ぎながら、騒音を発している男…スクアーロに視線を向ける。

「あースクアーロ。それは本当…ごめんなさい。」

スクアーロの長い銀色の髪からは雫が落ちており、シャワーを浴びたばかりだということがよくわかる。しかしそれ以上に目に入るのは目の下の隠しきれていない真っ黒な隈で、なまえが不在の間、一人で凄まじい量の仕事を捌いていたという証拠だった。今回ばかりは素直に謝罪したなまえは疲れた体に鞭を打って起き上がると、傍に投げていたトランクを開けて、そこに詰め込んでいた大量の紙の束を出した。

「でも、一応紙の仕事はこれで全部片付けたわ。」
「肝心のSランク任務は全然片付いてねぇけどなぁあ!!」

なまえが出した紙束を乱暴に引っ掴み、謝罪した側から現実を突き付けてくるスクアーロに、なまえは思わず溜め息をこぼす。確かにスクアーロの言う通りなのだが…遠路はるばる日本に行き、仕事を片付けながらくたくたになっている時くらい忘れさせてくれてもいいだろう。

「で、仕事放ってあのガキに会いに行った感想はどうだぁ!」

なまえが項垂れている傍ら、スクアーロは早速なまえが日本へ行った成果を訪ねてきた。それを聞いたなまえはなにやら考えるように目を細めるが、すぐに首を横に振りながら答える。

「確かに可能性はある可愛くて優しい子だったけど…私には合わないわ。眩し過ぎるもの。」

なまえの脳裏によみがえるのは、沢田綱吉がなまえに向けたたくさんの気遣い。その中には確かに僅かな恐怖も含まれていたが、それでも彼自身の優しい気持ちも伝わってきた。クーデターを起こし、守護者を危険に晒したザンザスの妹という立場のなまえに、怒りの顔一つ見せなかった沢田綱吉は…なまえやヴァリアーの人間とは根本的ななにかが違っているのだ。そんななまえの答えを聞いたスクアーロは、まるで同意するかのように鼻で笑ってみせる。

「当たり前だろぉ!こう言っちゃ癪だが、オレ達はあのクソボスの言葉にできねぇ魅力に惚れちまってんだからなぁ!」
「ふふっ…そうね。でも、あんな馬鹿兄貴を叩きのめしたのも確かにあの沢田綱吉なんだから……不思議ね。」

ザンザスの前では決して口にしない話しを交わす二人の顔には、確かに笑みが浮かべられていた。天邪鬼な言い方をしているものの、二人の一言一言には確かなボス…ザンザスへの信頼が覗いている。

「…まあ、今は黙っていてあげるけど、あの子が間違えるようなことがあったら、私はいつでもあの子とあの子の守護者に銃を向ける。だってどんなことがあっても、私達のボスはあのクソ兄貴ただ一人だもの。」

ボンゴレファミリーが聞いていたら目の色を変えるような言葉をさらりと言ってみせたなまえにスクアーロはその尖がった歯を見せながら、確かになぁと大笑いしてみせた。それにつられるようになまえもくすくすと笑いをこぼし、自らを奮い立たせるように声を上げる。

「さて…さっさとSランク任務を片付けて、打ち上げでもしましょ。もちろん、兄貴の分の酒も全部空けて、ね?」
「う゛お゛ぉい!!そんなことしたらてめぇ、クソボスにかっ消されんぞぉお!」

スクアーロの脳裏に浮かぶのは、このヴァリアーイタリア本部がザンザスの手によって粉々にされる光景。それでもなまえは、紆余曲折あったとしてもただこうしてザンザスとヴァリアーが共に過ごしていける日を大切に思うかのように。満面の笑みを浮かべていた。

鉛の翼を引きずっても
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