空から降り注ぐ雪。花びらのように散る雪を、ふと雪と同じほどに白い指先が掬い取った。白い指先の持ち主である少女は、淡い色の髪を揺らしながら満足げに息を吐く。自らが吐いた息と共に再び白い大地へと帰っていく雪を見た少女…なまえは、優しく微笑んだ。ちょうどその時。

「なまえ。」

聞き覚えのあるやわらかい声がなまえの名を呼ぶ。その声を聞いて浮かべていた笑みを更に深めながら、なまえは声の方へと振り返った。笑顔のなまえに対し、なまえの名を呼んだ人物はその垂れ気味の眉を寄せながら、困ったように笑っていた。

「ここにいたんだね。どこかに行く時は、一言言ってからにして欲しいな。」
「ん…でも、わたしがどこにいても…士郎はいつも、見つけてくれるよね。」

伸ばされた手を取りながら変わらぬ笑顔で答えたなまえに、士郎…なまえの幼なじみである吹雪士郎は、少し驚いたように目を見開くも、すぐにその表情を緩めた。触れ合った互いの手はひかれ合うようにぎゅっと繋がれ、二人はそれが当たり前であるように白い雪原を進んで行く。最初は隣にいた筈なのに、いつの間にか吹雪に手を引かれていることに気がついたなまえは、はっとして一歩を大きくしようと俯いた。そんななまえの姿を、吹雪は微笑ましそうに眺める。
そんな二人の姿は他人とも、きょうだいとも、恋人とも、どの言葉も当てはまらなかった。しかし一つだけ確かに言えるのは、二人の手のひらは何度ほどけても、何度でも固く優しく、結ばれるであろうということ。

***

吐く息も凍りそうになるほどに冷え込む夜は、まるで時間が止まっているかのような静寂に包まれていた。降り積もった雪は大地を白く染めて、星が瞬く藍色の夜空を一層際立たせる。そんな星空を一人、窓越しに見つめていた淡い色の髪を持つ幼馴染の背に、なまえはそっと手のひらで触れる。

「士郎、眠れないの?」

なまえの気配に気づいていたのか、声をかけられたなまえの幼馴染…吹雪士郎は、大して驚いた様子もなく振り返った。

「なまえこそ。長旅で疲れてないの?やっと北海道に帰って来られたのに。」

二人は、世を騒がせていた''エイリア学園''を倒すために全国を旅していた雷門中学校サッカー部に引き抜かれ、雷門のチームとしてエイリア学園と戦っていた。長いようであっという間だった戦いを終えて、円堂や出会ったたくさんの仲間達と別れを惜しみながら、今日北海道に帰って来たのだ。
士郎の言葉に対しなまえは少し考え込むように俯くと、苦笑を浮かべから口を開く。

「…色んなことがあったから、なんか…まだ''終わった''って実感がないの。」
「それは…確かに。まあ僕達、エイリア学園を倒すっていう名目で、学校休んで全国サッカー旅行してたみたいなものだからね。」
「北海道から出る機会なんてなかなかなかったから、色んなことが新鮮だったよね。」

顔を見合わせながら言葉を交わす二人は、あれやこれやと思い出話に花を咲かせる。短い間に様々なことがあった今回の旅だったが、二人にとっての一番の変化は士郎のもう一人の人格、アツヤとの決別だった。

「…明日さ、一緒に北ヶ峰にへ行こう。敦也に、強くなった僕らを見せに行こうよ。」

最初に彼の話を振ったのは、士郎の方だった。士郎の提案に対し、なまえはそっと微笑みながら言葉を返す。

「うん。お花も、持って行こう。敦也はきっと見向きもしないだろうけど。」
「そんなことないよ。なまえからの贈り物だったら、敦也はなんだって喜ぶさ。」
「うーん。そうだったらいいんだけどね…」

二人が話すのは今まで頼っていた、二人が創り出した''アツヤ''ではなく、二人が今まで向き合って来なかった、本当の''吹雪敦也''だ。幼い彼の太陽のような笑みを思い返しながら、士郎となまえの顔にも笑顔が灯る。そこには今まで敦也に対して感じていた後悔の色はなかった。あの頃にはもう戻ることはできない。戻らない過去を思い返して数え切れないほど流した涙も、決して消えることはない。それでも。今回の旅で出会った仲間達が教えてくれたのだ。''一人じゃない''と。

「……ねぇ、なまえ。」
「なあに、士郎。」
「僕、これからはもっとちゃんと見ることにするから。傍にいてくれる人のこと。」

士郎の顔にはいつもの柔らかい笑みではなく、確かな決意が込められていた。そんな士郎の表情を見たなまえも、そっと目を伏せると、彼の手のひらに自らの手を重ねる。
戻らない過去に泣いた夜には、もうさよならを告げる。明日を照らしてくれる大切な人が、ちゃんと傍にいるから。

「…あ。」

ふとなまえが、何かに気がついたように窓の外を見つめた。彼女の声に士郎もつられて窓の外を見ると、いつの間にか薄紫色になっていた空に一筋の光が差していることに気がついた。

「夜が、明けたね。」

まぶたの裏できみが駆けた

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