12月24日…クリスマス・イブ。世間では学校を終えた学生達がこれから来る冬休みにはしゃいだり、クリスマスだけならと特別に休暇を取った恋人達が浮かれている中。私立梟谷学園高校の体育館では、クリスマスなど関係なしに厳しい練習が行われていた。一見いつもと変わらず真剣に取り組んでいるように見える部員達だったが、空気の入れ換えのために開いたままの体育館の扉から嫌でも見えるクリスマスに浮かれた生徒達に自然と気をとられてしまう。

「はぁー世間はすっかりクリスマスだなぁ。」

痺れを切らしたように最初に口を開いたのは、スパイクがなかなか決まらない故か、はたまたクリスマス・イブの中部活をやっている虚しさ故か、先程から少しばかり”しょぼくれモード”に入っていた木兎。テンションが上がっている時も少々面倒だが、テンションが下がるとそれ以上に面倒くさくなる木兎のこれまたしんみりした発言に、傍らにいた部員達は溜め息をつきたくなる気持ちを抑えながらなんとか口を開く。

「まあまあ、そんなにしんみりすんなって。」
「それを配慮して明日のクリスマスは監督が特別にオフにしてくれたんだろ。」

そう木兎に声をかけた木葉と小見の二人だったが今の木兎には逆効果だったようで、拗ねたように口を尖らせながらうじうじと文句を吐き出し始めた。

「そりゃ明日は休みだけどよ?クリスマスって言ったって?どうせ?彼女いねーし!!」

自らの気持ちを吐くように、ここが部活中の体育館ということも忘れて大声を上げた木兎。ここまで言われると、話を聞いていた二人ももはや苦笑を浮かべることしかできない。
バレーとは関係ない理由ですっかりしょぼくれモードに入ってしまった木兎にもはや見ていられなくなった赤葦は、隣のコートからわざわざ木兎の元へ足を運んで少々呆れ気味に口を開いた。

「何くだらない理由でしょぼくれてるんですか。明日はオフになるし、年末年始も練習減るんですから今しっかりやっておいて下さいよ。」
「うるせー!どうせ赤葦にはオレの気持ちなんてわかんねーもんな!!お前はクリスマス・イブもクリスマスも一人じゃねーもんな!!みょうじがいるもんな!」
「はあ…まあそうですね。幼なじみですし。」

さらりとクリスマスは一人ではないことを伝えた赤葦の発言に木兎は悔しげにくーっと歯を食いしばり、傍らで話を聞いていた木葉と小見もこればかりは羨ましい気持ちを隠しきれない。

「幼なじみって言っても、ほんっと赤葦とみょうじ仲いいよな。だいたいいつも一緒にいるし。」
「そうですか?まあ小さい頃からずっと一緒でしたし、なんか放っておくと…」

赤葦がそう言いかけたと同時に、体育館の隅からきゃああ、と何とも慌てた叫び声が聞こえてきた。それを聞いた部員達はまたか…と再び苦笑を浮かべ、叫び声の人物に心あたりのある赤葦は、遮られた言葉の続きを小さく吐き出しながら叫び声が聞こえてきた場所へと向かう。

「…心配になるんだよな。」

***

「最近しばらくドジしてなかったに……明日オフの今日に限ってやらかしちゃうなんて…」

なんとか終了した24日、クリスマス・イブの中での部活。帰り道のすっかり暗くなった空の下でしょんぼりと溜め息をついているのは、見ての通り先程ドジをやらかしたみょうじなまえ。久々にやらかした今日のドジは足元に転がっていたバレーボールに躓き、準備し終えたドリンクを全てぶちまけるという中々派手なものであった。

「最近やらかしてなかった反動が今日まとめて来たんじゃない?」

すっかりしょぼくれているなまえにいつもならあまり聞けない砕けた口調で話を続けたのは、赤葦。先程なまえがドジをした時も真っ先に駆けつけた彼はなまえのお隣さんであり、幼い頃から一緒にいる幼なじみだ。

「うぅ…京君にも他のみんなにも迷惑かけちゃって、本当に申し訳ないよ。」
「そんなに気にしなくてもいいんじゃない?先輩達もなまえのドジはもう慣れたものだろうし。」
「その”慣れたもの”ってところを直したいの!」

赤葦の言葉に今度は少し拗ねたように頬を膨らませながら子供のように反論したなまえに、赤葦は思わず笑ってしまいそうになりながらそうなの?と問いかける。その問いにそうだよ!と首を縦に振ったなまえは、先程までの今日やらかしたことについてしょぼくれていた姿は何処へやら。火がついたように話し出した。

「いつまでも京君やみんなに迷惑かけるの嫌だもの…!それに、いつまでも甘えてたら、助けてもらいたくても助けてもらえない状況になった時に困るでしょう?」
「へぇ。それってどんな状況の時なの?」
「一人の時とかだよ!ほら、もしも一人でサプライズをやるってなった時とか、助けてもらいたくても助けてもらえないでしょう?」
「一人でやるサプライズってどんなサプライズなの?」
「そりゃ明日のクリスマスの…」

そこまで口を滑らせたことで、ようやくなまえは目の前の幼なじみの思惑どおりになっていることに気がついた。口を滑らせてしまった悔しさに任せて声を上げそうになったものの、珍しく得意げに口の端を上げている赤葦の姿を見て何も言えなくなってしまう。いつもは中々見ることができない赤葦の表情は、試合中フェイントが決まった時などにまれに見せる色っぽい表情だ。なまえがこの表情にとてつもなく弱いということを知っている赤葦は、黙ってしまったなまえに代わって言葉を続ける。

「クリスマスのサプライズ?」
「…うん。ちゃんと一人で準備して、京君のこと驚かせようと思ってたの。でも、やっぱり京君には敵わないなあ。」

溜め息混じりにこぼすなまえの姿はやはり幼い頃となにも変わっておらず、赤葦は口元を緩める。

「なまえはわかりやすすぎるんだよ。まず目の下のクマとか。」
「うっ…こ、これは昨日ケーキ焼いてたから…」
「白福さんと雀田さんにそれ指摘されたらすごく動揺してるし。」
「ゆ、雪先輩もかおり先輩もニヤニヤしながら聞いてくるんだもん…!」

次々と飛んでくる赤葦の指摘に、なまえは真っ赤になりながら必死に言葉を返す。その言葉をうんうんと頷きながら聞く赤葦の姿も変わらないままで、なまえの顔も自然と笑顔が浮かんだ。

「あのね、これから昨日失敗しちゃったケーキの材料をもう一回買いに行くんだけど…京君も一緒に来てくれる?」
「いいよ。なまえ一人だと材料間違えそうだし、一回分の材料じゃ足りなそうだから。」
「な、そんなことないもの…!昨日あんなに練習したんだから!」
「そういえば、最近やらかしてないって言ってたけど、ケーキは失敗してたんだね?」
「う…そ、それは…」

クリスマス・イブの夜に響くのは、幼い頃からなにも変わらない二人の声。いつの間にか少し先を歩いてなまえの手を引く幼なじみの背中を、なまえはぎゅっと手を握り返しながら追いかけた。

優しい声でわたしだけにささやいて

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