真っ赤な鳥居を潜ったら、そこに並ぶのは賑やかなたくさんの屋台。きらきらと輝く提灯に負けないくらい輝く人々の笑い声は、普段あまり外に出ないわたしにはすこし迫力がありすぎた、かもしれない。

「わ、わ…人、いっぱい…」
「そりゃあ当たり前だろ。旧市街の祭り、って言ったって、ひっくるめれば帝都の祭りなんだから。」

わたし達を取り囲むのは一面ひと、ヒト、人。普段は弱い身体のせいであまり外に出ないわたしは、こんなにたくさんの人に囲まれたことなんてある訳もなく。偶にだから、と引き籠もりのわたしに真っ赤な金魚が泳ぐ浴衣を着せて、わたしを外に連れ出してくれた蒼に鬱陶しいくらいに引っ付きながら歩いていた。わたしに引っ付かれている蒼はというと辺り一面の人混みなど気にもしていないようで、わたしの手を引きながら人と人との間をするりするりと抜けていく。わたしはそんな蒼に置いていかれないように、ぎゅっと握られた手のひらに力を込めた。

「あ、蒼は人混み慣れてるの…?」
「まあ引き籠もりのなまえよりは慣れてるんじゃない?…あと、そんなに手握られなくても、なまえのことは置いていったりしないよ。」

わたしの気持ちを見透かすように、人並みの中わざわざこちらに視線を向けてにやり、と笑う蒼。そんな彼にわたしの頬はみるみるうちに熱くなって、その勢いで握っていた蒼の手をさらに強く握ってしまった。わたしの行動を見てさらに蒼の笑みが深くなったような気がするけれど、蒼の顔を確認するほどわたしに余裕なんてない。
とりあえずわたしは、ちょうど目に入った林檎飴に助けを求めることにした。

「わ、わたし、林檎飴がたべたい、です…」
「なあに?頼み事はちゃんと目を見て言わなくちゃ、ね?」
「う、」

まるでわたしに逃がさない、とでも言うように食いついてきた蒼は、俯くわたしの顔を覗きながらそんな無茶振りをしてきた。ここは、道の真ん中だし、顔熱いし、恥ずかしいし…蒼の馬鹿。
心中で毒を吐くけれど、言葉にしていないものが蒼に通じる訳もなく。わたしはしょうがなくまだ熱を持っている顔を上げることになってしまった。

「り、林檎飴が、たべたい…です。」
「はい、よくできました。」
「…嬉しくない。」
「まあまあ、顔真っ赤で金魚みたいで可愛いよ。」
「き、金魚…」

わたしの言葉を聞いて満足げな蒼はわたしの頭をぽんぽん、となでて、約束どおり林檎飴のお店に向かっていった。なんだか全部蒼の思い通りで少し悔しいけれど、金魚みたいで可愛い、って…なんなの。先程蒼が言った微妙な褒め言葉を思い返して、わたしは思わず浴衣に泳ぐ真っ赤な金魚をまじまじと見つめてしまった。確かに浴衣に泳ぐひらひらした金魚は可愛いけれど…うーん。
なんて、一人そんな小さなことを頭に巡らせていると、片手に林檎飴を持った蒼が戻ってきた。人通りの激しい場所にいたわたしを裏の方の道に誘導しながら買ったばかりの林檎飴を渡してくる蒼。
蒼と林檎飴。その組み合わせがなんだか面白くて、わたしは仕返しとばかりにくすくすと笑いをこぼした。

「…蒼と林檎飴、って、なんか可愛いね。」
「はあ?なにそれ。全然嬉しくないんだけど?」
「嬉しくなくていいもん。今までの仕返しです…わたしは金魚じゃありません。」
「別になまえが金魚、とは言ってないし。それこそ可愛いって言っただけだよ?かわいい、って。」

わたしが反撃したつもりだったのに、また顔が熱くなっているのはわたしの方だった…か、かわいいかわいいって、なんでそんな簡単に連呼できる、の。

「…蒼の、ばか。」
「はいはい。それより、林檎飴食べなくていいの?一人で食べないなら俺が食べさせてあげよっか?」
「い、いいです…!」

懲りずにまたそんなことを言い出す蒼に、わたしは赤い頬を隠すように背を向けた。
蒼のおかげで目が回りそうな人混みの息苦しさは解放されたけれど、蒼のせいでわたしの頬の熱さは引きそうにない…でもやっぱり、蒼といつもと違う場所でふたりでいるのはいいなあ、なんて思ってみたり。

「ねえなまえ、今またなんか可愛いこと考えた?耳、赤いけど。」
「か、かか考えてません…!」

また勢いで蒼の方を振り向いてしまうと、彼はわたしがこうするのがわかっていたかのように、満足げに笑みをこぼした……悔しいけれど、わたしが蒼に勝てる日はまだまだ先らしい。
その悔しさを紛らわすように、わたしは先程蒼が買ってくれた林檎飴を一口かじったのだった。

金魚は夜空では泳げない

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