賑やかなシンドリアがすっかり静寂に包まれて、群青色の空に月や星がきらきらと瞬く頃。彼は決まってやって来る。まるで、絵本の中で見たお姫さまを連れ出す王子さまみたいに。
いつもどおりバルコニーに出て夜空を見上げていると、やっぱり彼はやって来た。

「よぉなまえ。今日も来てやったぜ。」
「あ…こんばんは、ジュダル。」

ジュダルは魔法の絨毯に乗って、胡座をかきながらわたしに笑みを見せながら言った…今日も、来てくれた。それが嬉しくて、わたしの顔は自然と綻ぶ。そんなわたしを見て、ジュダルはなににやけてんだよ、とわたしの顔を覗き込んできた。その近さに少し驚いたけれど、それはいつものこと。ばくばくと鳴る胸を押さえながらわたしは口を開く。

「あ、あのね、今日も来てくれたから嬉しくって。ありがとう。」
「まあな。おまえがそう言うからいつも来てやってるんだし。」
「ふふっ。今日はなにを教えてくれるの?」

わたしの問いに、照れたように赤面していたジュダルは瞬く間にそうそう!と無邪気な表情を浮かべた。

「今日は煌帝国の強いヤツについて話してやるよ!」
「強いヤツ…あ、れ?この間も話さなかったっけ?ほら、シン兄様と同じくらい強いっていう…」
「今日は紅炎じゃねーよ!煌には他にもいっぱい強えヤツがいんの!」

煌帝国は俺が迷宮攻略者を増やしてやった、とか俺が敵をぶっとばした、とか。いつも話をしていると最終的には自分の話になっていくジュダル。わたしはそんなジュダルが面白くって、ジュダルの話はいつ聞いても自然と笑みがこぼれてしまう。
ジュダルは煌帝国のマギ。そしてわたしはシンドリアの巫女、七海の覇王の妹。
シン兄様はジュダルのことをあまり良く思っていない。けれど、魔導士の力と反比例して身体が弱く、あまり外に出ることができないわたしに色々なことを教えてくれるジュダルが……すき。
ジュダルが教えてくれるまでわたしの世界はシン兄様と八人将のみんな、シンドリアだけだった。けれど、ジュダルのおかげでジュダルがいる煌帝国のこと、マギが作ることができる迷宮のことなど、たくさんの世界を知ることができた。
今、わたしが考えていることはきっとシン兄様の考えとは180度違うかもしれない……けれどわたしは、この時間が永遠に続けばいい、なんて、そんなことを思ってしまうのである。

「おいなまえ、聞いてんのか?」
「わ、き、聞いてる!聞いてるよ!」
「本当か?」

ぼうっとそんなことを考えていたためか、ジュダルはわたしに眉間にしわを寄せながら尋ねる。質問に対してのわたしの説得力のない答えに、ジュダルは真っ赤な目でわたしを探るように見つめてきた。そんな瞳に、わたしはうう、と言葉を詰まらせる…わたしはジュダルにはかなわない、みたい。

「ご、ごめんなさい。あ、あのね、えーと…」

ジュダルの不機嫌そうな顔に、わたしは真っ白になる頭を頑張って回転させながら言うことを考える。前にジュダルを今回と似たような感じで怒らせてしまった時、ジュダルが来てくれなくなってしまったことがあったのだ。その時わたしは寂しくて寂しくて、どうしようもなくて。その時は少し経った後無事に仲直りすることができたけれど、やっぱり今回もぼうっとしていたわたしが悪い、し。

「やっぱり、あの…嬉しくて。この時間がずっと続けばいいのに、なんて考えてて…って、あ、っ!」

わたしは自分がとても恥ずかしいことを口走ったことを自覚して、はっと自分の口を押さえた。顔に熱が集まって、自分の顔を見なくっても自分の顔が赤くなっているということがわかる…ど、どどどどうしよう。動揺を隠しきれないわたし。俯きながらちらり、とジュダルの様子をうかがうと、目が合った瞬間、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられた。

「え、あ…」
「へえ。なまえ、おまえそんなに俺と話すのが楽しいのかよ?」
「い、いや…あ、えと…たのしい、よ。」

こんがらがった頭のまま答えたわたしに、ジュダルはまた子供のような無邪気な顔、けれど半分は青年の色っぽい顔で口元に弧を描いた。それにすっかり見とれていたわたしはそのまま身を乗り出してきたジュダルに腕を引かれる。

「じゃあ今度は攫いに来てやるよ、なまえ?」

そう言ってわたしの額に口づけを落とした彼は、またな、なんて無邪気に笑うと闇に消えて行ってしまった。わたしはというと、口づけをされた額を両手で押さえながらへたへたとその場に座り込む…もう、なんであんなに簡単にそんなこと言える、の。

「ジュ、ジュダルの…ばか。」

わたしの罵声はもちろんジュダルには届いていない。けれどもし、次会った時にジュダルが本当にわたしを攫ってしまったら、それはまるで御伽噺の一ページである…それをどこかで心待ちにしている自分もやっぱり心のどこかにいて。
わたしは一人、くすりと笑みをこぼしたのだった。

そして永遠になるためのお伽

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