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第2回拍手御礼SSS過去ログ:『Sweet & Sweet』(カイジ)


「ただいまぁ…」
クタクタに疲れて帰宅した、九月半ばの夜。
決算期はこれだから嫌だと、凝り固まった肩を自分でトントンと叩きながら、明かりのついた玄関でパンプスを脱いだ。
「お、帰ってきた…」
そんな独り言がキッチンのほうから聞こえてきて、私はちょっと頬を綻ばせる。
こんな夜は特に、一人で帰宅して誰もいない暗い部屋に入るよりは、家族でも恋人でもいいから、こうやって迎えてくれる人間がいたほうが嬉しい。
「カイジ、ただいま…」
「おう」
今の私はものすごくくたびれた風貌をしているだろう。スーツのジャケットがヨレているのが自分でもわかる。
「風呂沸かしといたから。あと、メシも作ってる…」
「ウワーン、ほんと助かる…。ありがとう」
私は本気で涙ぐみそうになりながら、カイジに抱きつかんばかりの勢いで礼を言った。
「いいって、いいって」
照れているのか、いつもよりちょっと素っ気無い恋人は、私にくるりと背を向けると、料理の続きに取り掛かっていた。


シャワーを浴びてキッチンに戻ると、あと五分くらいで夕飯ができるとカイジが告げる。
私は冷蔵庫から缶ビールを一本取り出し、それまでベランダに出てみることにした。
今夜は十五夜だと、会社の女の子が言っていたのを思い出したのだ。
なるほど、夜空には綺麗な月が出ていて、卵色の柔らかな光が降り注いでいる。
「何、月見?つかお前、服くらい着ろよな…」
いつの間にか背後に立っていたカイジが、下着姿の私から慌てて視線を逸らせようとしているのが可笑しかった。
「だってお風呂上りで暑いんだもん」
私はビールを一口啜る。仕事を頑張った後の一杯は本当に美味い。
「もうすぐ晩飯できるから…。それまで、良かったらつまみにこれ食ってろよ」
「ん、なぁに?」
振り返ると、カイジが視線を逸らしたまま差し出したのはパックに入った三色の団子。
「バイト先で貰ったんだ。余りモノだけど…」
高級店のものではなく、コンビニのスウィーツをもじもじしながら差し出す様子が何だか可愛い。
私は礼を言って受け取ると、すぐに一口噛り付く。
疲れた体に程好い甘さが心地良く沁みていき、「美味しい…」と餡にも負けない甘い声が出た。

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