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第1回拍手御礼SSS過去ログ:『役得』(原田克美@天)


「花火が、綺麗…」

そう呟きながら、彼女はほうっとため息をついて、夜空を見上げた。
月明かりと花火の残光に照らされた彼女の横顔は、幻想的なまでに美しく、俺はついそちらに見惚れてしまう。

「ねぇ、原田さん」

同意を求められて、ああ…とか、そうやな…とか、切れ味の悪い返事をしながら、これが自分の女だったらと思わずにはいられない。
彼女は赤木の恋人だ。アイツが自分は予定があるからといって、俺に連絡してきたのは今朝のことだった。

『原田、今夜暇だったらコイツを縁日に連れて行ってやってくれねぇか』

電話の後ろで、一緒に行こうって言ってたのにー…と、彼女の恨めし気な声が聞こえる。

(あいつ、赤木が相手だとこんな甘えた声が出せるんか…)

そう思うと癪だったが、そちらに気を取られている間に、勝手に段取りを決められてしまった。
夕刻、待ち合わせの場所に浴衣姿で現れた彼女は、長い髪を高い位置で結って可愛らしい髪飾りをつけていた。白い項と細い首筋が息苦しくなるほど艶めかしくて、会ってから数時間経った今でも直視できない。
しかし当の本人は、俺の心中なと露知らず、縁日の屋台や踊りに夢中で、

「原田さんも一口いかがですか?」

などと、平気で自分の食べかけのりんご飴を差し出したりする。それは間接キスになるのでは…と焦ったが、きっと赤木はそんな話を彼女から聞かされても、別段気に留めることはないのだろう。

(調子狂うな…)

けれど、惚れた女のペースに上手く乗せられているのは、悪い気分ではなかった。

「きゃっ…」

花火に気を取られていた彼女に、若いカップルがぶつかる。あ、すみません…と男のほうが謝って、「人が多いから危ないよ」と言いながら、女の肩を抱き寄せていた。
彼女はその二人をぼんやりと眺めている。羨ましいのか、少し寂しそうな顔だった。

(ああ、もう…っ)

小さく舌打ちして、彼女の華奢な肩をぐいっと自分のほうに引き寄せる。

「原田さん…!?」
「人が多いから、気ぃ付けな危ないで」

こっちに寄りかかっとき…と言うと、拍子抜けするほど素直に身を預けた。
彼女の体を胸に抱きつつ、今日は赤木に感謝してもいいかなと思う。

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