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第1回拍手御礼SSS過去ログ:『二人の宝物』(直江兼続@花の慶次)


夏が来ると思い出す。
越後へ初めてやって来た年に、兼続さまが連れていってくれた夏祭りのことを。

今年もまた、祭りの季節がやって来た。
今日の夜は兼続さまと、麓にある神社へ出かけることになっている。
約束の夕暮れ時、執務を終わらせてから行くと言う彼と、与板城の大手門前で待ち合わせた。

「その浴衣は、そなたに本当によく似合うな」

先に着いて待っていた私への、兼続さまの第一声がそれだった。

「ありがとうございます」

面と向かって言われると、嬉しい反面照れ臭くて、私は顔が火照っているのを気付かれないようにそっと俯いた。ただ頬が緩むのだけは隠しきれず、えへへ…と照れ隠しに声を出して笑った。

「こうやっていると、結婚したばかりの頃を思い出す」
「私もです」

初めて二人で行った夏祭りの思い出は、夫婦の共通の宝物。
あまりに楽しく、幸福な時間で。あれから毎年、欠かさずに祭りに出掛けるのもきっとその為だ。

「今年こそは、金魚を一匹くらいすくいたいです」
「そなたは、金魚すくいは苦手だものな」

私がちっぽけな目標を大真面目に語ると、兼続さまが可笑しそうに笑う。毎年、一匹もすくえずに終わる私に、数匹すくって持たせてくれるのだ。最初に金魚を持ち帰った時、一緒に買って貰った可愛らしい金魚鉢は、今でも私の一番のお気に入りになっている。

「かき氷も食べたいですね」
「そうだな」
「ほら、はぐれると危ないから」

そう言ってごく自然に差し出された手に、私は当たり前のように自分の掌を重ねる。同じことを、もう何年も繰り返してきた。強く握りしめた手は放すのが惜しくなるほどで、金魚すくいは今年はもういいかな、と毎年この瞬間だけ、本気で思うのだった。

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