小説 | ナノ

第1回拍手御礼SSS過去ログ:『夏休みの宿題に』(アカギ13)


夏休みの宿題で絵日記を描かなければならない。
題材がないと言ったら、同居人が縁日に連れていってくれた。
「近所の神社でね、今日から始まったのよ」
ちょうど良かったね…と、軽やかに参道を歩く相方を見上げる。浴衣を着飾った若い女が多いから、普段着姿の彼女のほうが目立った。
贔屓目抜きに見ても、浴衣を着た女たちよりも彼女のほうが見栄えが良い。そのことが何となく嬉しかった。

「迷子にならないように手繋いであげよっか?」

口を開けば子供扱いなのが癪に障るけど。

「金魚すくいやる?それともヨーヨー釣りがいい?くじ引きもあるよ」
「やらないよ。そんなモノで喜ぶような歳じゃないでしょ」
「まぁ、去年までランドセル背負ってたくせに何生意気言ってんのよ」

俺の言葉を右から左へと受け流して、からからと笑う。
怒る気持ちよりも、楽しそうな表情を見て安堵した自分が不思議だった。

「じゃあ、りんご飴は?あれ美味しいよ」

しげる君、食べたことないでしょ…と、スタスタと屋台のほうへ歩いていく。
「あ、ちょっと…」

慌てて背中を追った。人混みだから迷子にならないように…と言っている張本人のほうが危なっかしい。
追いついた時には、もう飴を手にしていて。

「はい、どうぞ」

と笑顔で差し出される。

「あ、ありがと……」

押し付けられるようにして受け取りながら、このりんご飴は絵に描きやすそうだなと思った。

「美味しいでしょ?」
「うん」
飴でできた球体の中には、本物の林檎が入っている。こんな食べ物があったのかとまじまじ眺めていたら、

「あー、見てたら食べたくなった。しげる君、一口ちょうだい」

相方が、俺の手元の飴をじっと見つめていた。

「いいよ」

やったぁ、と嬉しそうな声を上げて、赤い球体に口づける。
日記のりんご飴にキスマークを描いたらマズいのだろうか…と、そんなどうでもいい事をふと考えた。

prev / next
[戻る]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -