螺旋階段が目の前にあるこの場所が
貴方と私のつながりで
一週間にたった 一日
世界が変わって いた。
ハロー ジーニアス#1
静かで落ち着いたこの空間
ここには 一週間に一度 やたら女の子が増えて 騒がしくなる日がある。
私の当番の日でもあって それは………
「こんにちは、貸し出しですね」
今日がその日、と言うわけだ。
本を借りるでも 読むでもない女の子たち。
何か、きらきらしていて、凄いなあ と思う。
その騒ぎの張本人は チャイムの10分後にいつも、決まって私の目の前の扉から 入ってくるのだ。
(あ 来た)
きゃああ、と黄色い声があがった。
この日のために委員長はやって来て、
『図書室はお静かに』
と制するのだ。
その為だけにやって来るのだから、それだけ彼のファンが多いということなんだろう。
他に幾つものカウンターが有るなかで、
私の目の前に立つのは 、
「忍足先輩こんにちは。返却ですか?」
「一週間振りやな」
「あ、そうですね。 …はい、カードお返しします」
「おおきに。 今日のお薦めは?」
返却と同時にお薦めを訊かれる。
始めのうちは話しかけられるのにもおろおろして、お薦めなんて何を選べば、どんなジャンルが、とかばかり考えていた。
もう慣れてきたこの頃は、忍足先輩と自分の好みが同じ と言うこともあって、
来ると分かっている水曜日までに探しておくことが習慣づいている。
「あ これなんかはいいと思いますよ!
私も丁度、読み終わったばかりで」
「ほなら、それ借りるわ」
「感動ですよ!」
「楽しみやな」
忍足先輩は 眼鏡越しに柔らかく笑う。
私が忍足先輩に
恋
している事はやはり 誰にも内緒 で。
ファンクラブなんてものもあるみたいだけれど、「ファン」なんて言葉では片付けられそうにない気持ちだった。
たった、七分の一のこの繋がりでも 私の大切な一日。
「自分 ラブロマンス好きやんな?」
「ええ、好きです」
「もし良かったら、それ 読んでみ」
「これ ですか」
手渡されたのは一冊の本。
ブックカバーがかけられているから題名は分からないけれど、
忍足先輩が薦めてくれるからには良い本なのだろう。
「ありがとう、ございます」
「ほなまた」
「はい、さようなら」
忍足先輩が居なくなると、それを追うように女の子たちも帰っていく。
どうせ来るなら、本借りていって欲しいな、なんて思っても 届かないだろうけど。
きっとあの子達の中も 私と同じで
忍足先輩への想いで いっぱいなんだ。
すきって言うのは多分、そう言うことだから。
*
「お疲れさま、なまえちゃん」
「あ、委員長お疲れさまです」
「なまえちゃんって……忍足と仲良いよね」
にっこりと笑う委員長。
今日の貸し出し、返却のデータをまとめながら委員長はそういった。
忍足先輩はかっこいいけど、委員長だって中々のイケメンなのにな。
そりゃあ、仲が良いなんて言われたら嬉しいに決まっている。
仲が良い、ならいいのだけれど。
忍足先輩にとっての、鬱陶しいになっていなければいいな。
「じゃあ、お先です」
「はーい、またね」
「さようなら」
*
帰りの電車の中、ごとん ごとんと揺られながら 忍足先輩に借りた本を読んだ。
途中、忍足先輩らしい、とくすっと笑ったりして。
初めて読んだ“彼”は、やさしくて、情熱的なお話だった。
少しだけ彼を近くに感じた
そんな一日。
ハロージーニアス#1
(どきんどきん)(ごとんごとん)