■3 メガネ天使
「兄さん、『サタン』の事よく知ってる?」
「………は?」
「だから、青焔魔(サタン)、魔神(サタン)だってば」
「…俺たちを生んだ奴だろ。でも俺たちの父親はジジィだけだかんな」
そう言う燐に向かって雪男はメガネをクイと上げながら、塾で教壇に立つときのように喋る。
「“サタン”というのは『旧約聖書』の“敵対者”、“妨害者”を意味するヘブライ語から来ている」
「へぶらいご、ってなに。イナゴみたいな?ファンダンゴみたいな?」
「何で兄さんの口から『ファンダンゴ』なんて単語が出るんだ。逆にすごいよ。踊りなんて盆踊りしかできないくせに」
「…自分で言ったけどファンダンゴってなに?」
雪男は燐の質問を無視した。
「また、『ルカによる福音書』の中でサタンとルシファーが同一の存在であることを意味する言葉をイエスが言っている。それからサタン=ルシファーという形が出来上がったんだ」
「…うん、全ッ然わかんね。…ほんで?」
「全ての悪魔の王であるルシファー、またはサタン、と、天使の長であるミカエルは双子の兄弟だという説がある」
「……ふうん」
「これは神がもつ二面的な性格を意味していて、両者は敵同士として闘争を繰り返している」
燐は少し考えたような顔をしたあと、至極真面目な顔で雪男を見つめた。
「それって俺たちと似てるな」
雪男はほんの少し眉をひそめる。
「…兄さんが悪魔で、僕が、…その、じゃあ、…天使ってこと?」
「俺とお前、正反対って言われてるからな。まあ、今のとこ敵対はしてねえけど」
「……」
「アハハ、雪男が天使だって、てんし〜。…ハッ。……メガネ……天使…?」
燐は幼い頃の記憶を呼び起こし、う〜んとうなる。
「そういや、…ガキの頃おまえクリスマスに天使の格好させられてたな」
「…修道院だから仕方ないだろ、クリスマス時期は。とうさんが、僕らに天使の格好させてたんだ。兄さんは全然似合ってなかったけど。どっちかっていうと堕天使だった」
「お前はすげー似合ってて結構可愛かったよな。ていうか、あの頃からメガネ天使だったんだな!雪男のメガネ天使!そのメガネで天使とか、やべー、まじウケる!」
燐は雪男に向かって指を差して笑い転げた。
「は、うはは、そのメガネは神の思し召しってか、さすがメガネ天使」
「笑うな」
「今からメガネ天使って呼ぼうっと」
「やめろ」
「雪男のメガネ天使!メガネ、ふひ、ぎゃははははは!」
「黙れ」
「ヒィーひひひひ!うは、うははは、ぶわはははは!!」
「おいいい加減にしろ殴るぞ」
燐が悪魔そのものの声で笑い続けるので、雪男はイラッとして彼の脳天に教科書の硬い角をたたきつけると、悪魔の無様な叫び声が辺りに響いた。
<なんか話にならなくてまとまらない>
※ファンダンゴ=フラメンコの一種かなんかだったと思います
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