■16-4
よく流すアレ
「僕さ、前々から思ってたんだけど、このそうめんの中に緑色のとピンク色の麺をちょこっとだけ混ぜる意味あるのかな」
「見た目の問題だろ。それに、それそうめんじゃなくてひやむぎなんだぜ」※揖○乃糸の場合。メーカーによっては白麺だけの場合もあります
「え…そうなの」
「お前知らなかったの?」
「あんまり考えたこと無い…」
「そうめんと冷麦は太さがちがうんだぞ。あと材料も違ったりする」
「ふうん…そうなんだ。料理の事となると兄さんは知識が桁違いになるね」
「それ褒めてんの?いいから流すぞ」
「…思ったんだけどさ…なにも屋上一面使って流しそうめんすることなかったんじゃないかな…?」
「えっ?」
「ほら見てみてよ…流すところから終わるところまで何メートルあると思ってるの?昨日夕方にどっか行って屋上でしこしこ作業してるなと思ったらさぁ…何無駄な事に力入れてるの?」
「えっ、夏の風物詩じゃね?その辺から取ってきた竹使ってるからお金かかんねーし別にいいじゃん」
「風物詩とか…よくそんな単語知ってたね」
「バカにするな。…でも楽しくね?全長10メートル」
「長すぎだろ!!」
「長けりゃ長いほうがいいだろ。ホラッ、いくぞ!!」
「うわ!!待って!!…ちょ、流れ早くない!?」
「ぼやぼやすんなメガネ!!サッとすくえ!サッと!!」
「アーッッ!!!!」
「……あーあ、もう桶ん中入った」
「…別にこの桶きれいだからここから食べてもいいんだけど、流れてるうちに取れないと何かに負けた気がする。なんだろうこの敗北感…?」
「あっ、わかるかわる。俺も思う」
「…もう一回流してよ」
「今度はちゃんと取れよ。…ほい」
「…よし、…よし!!取った!!…やった!!何だろうこの達成感!!」
「ちょ…俺もやる!!次はお前流せ!!交代な!!」
「はいはい。…いくよ」
「よし来い!!」
「はい」
「アーッッ!!ちょ、取れねえ!!なにこれむずい!!意外とむずい!!」
「だから流れ速いんだよ。ちょっと傾斜つけすぎたんじゃないかなこの竹」
「でもさー10メートルもあるから下手すっと途中沈んでちゃんと下まで流れねーんだよな」
「それにしても大掛かりなセットをよく一晩で設置したよね…器用って言うか何なの兄さん。やっぱりバカじゃないの。バカのなせる業だよこれ」
「うるせえ。楽しいからいいだろ!いいから次流せ!!」
「はいはい。…あ、ピンクの麺入ってるよ」
「絶対取る」
「いくよー」
「ウオオオオオ!!!」
「うわ…麺と並走してる…」
「取ったどー!!うん、うまい!!茹で具合最高!!さすが俺」
「………僕ら流しそうめんに必死になりすぎじゃないかな」
「えっ?」
「なんか急に冷静になってきた」
「考え直せ雪男!冷静になったらおしまいだぞ!」
「あとさあ、…全部いちいち流して食べるの?何時間かかるの?」
「雪男オオオオオ!!そういうこと言うな!!追求したら終わりだってわかるだろ!!そういうこと言っちゃダメなんだよ!!いいからもう一回すくうほうやれ!んで、もう一回麺をすくう喜びを味わえ!そうしたらいつまでもこれやってられるから!!」
「うん……」
「いくぞ!あっ、緑色の麺入ってるぞ!絶対取れよ!俺の渾身の麺取れよ!!」
「わかった、努力する」
「うおりゃああああ!!」
「やっぱり流れ早い!!!」
「ホラッ!!走れ!!麺に追いつけ!!すぐ桶入っちゃうぞ!!ホラッ今だ!!」
「…ッ!!…取った!!」
「やったー!!」
「なんかよくわからないけどやった!!…おいしい!!」
「よかったな!!もう一回行くぞ!!」
「よし来い!!」
「うおおおおおー!!!」
そして二人前の麺を流すのに一時間以上掛かった
クロは呆れて遠巻きに見ていたという
若いっていいね!
<オチとかなかった>