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拍手御礼4-2
■暑い日
(雪+燐ver.)
※最初のほうはわざと同じ文になっています

 うだるような暑さに耐えかねてうな垂れる。机の上に伏せて、そのまま目を閉じるとふらふらと意識が飛んでいってしまって、戻ってこれなくなる。

 焼け付くようなジリジリとした日差しの中。

 遠くで、兄の声がする。

 起きろ、と言っているようだったが、それに従う気にはなれなくて。

 惰眠を貪っていると、頬が急に冷えた。冷えたというのも、冷たい指が触れたというレベルではない。どう考えてもこの冷たさは氷点下だ。

「……!?」

 驚いて目を開けると、燐が氷のかけらを雪男の頬に押し当てているのだった。
 
「ぅおーい、んなとこで寝て、暑くねーのか?」

「…えっ、氷…どこから…」

「そりゃ冷凍庫から。アイスまた買ってくるの面倒だから、冷凍庫の氷かじってた」

「そこまでして氷が欲しかったの?」

「だって超暑くね。これ死ぬレベル。俺もう無理」

 燐はそう言いながら、まだ意識のはっきりしていない雪男の着ているシャツの襟に指を掛けて引っ張った。そして何も予告せず氷を入れる。

「……うわっっ?!ちょ、な、何すんだよっ!!」

「え、氷入れたんじゃん」

「そんなことわかってるよ!人の背中にいきなり何入れてんだって言ってるんだよ!!」

 その氷はもともと半分割れていたから、背中ですぐに溶けて、腰の辺りにシミをつくる。

 水が下の着衣のほうまで滲みてしまった。

「うわ、ベタベタだし…何すんだよバカ」

「ふっふっふ、…実はもう一個ある。そーれ」

「うわああああ!バカ!」

 燐はもう一個持っていた氷のかけらを、雪男の腹側に突っ込んだ。

「うわ、つめたっ!この…バカ…」

「ひゃははは!背中も腹もびちょびちょだし!ぎゃはは!」

 シャツの裾は氷の溶けた水でビショビショになってしまった。

 そこだけいやに冷えて、冷たい。

 しかし、パタパタと服をあおいでいると、濡れてはいるが少しずつ気にならなくなった。暑い日差しに、濡れた服の裾はすぐ乾いていく。

 と言っても、燐に無理やり氷を突っ込まれた事に対する苛立ちまで消えた訳ではない。

「おい、何してんだよ。何遊んでんだよ。宿題終わったの」

「終わってない」

「あっさり答えるな。…僕が転寝してる間に少しでも進めようと思わなかったの」

「思うわけねーじゃん。お前が寝てる時はうるさくしないためにも何もしない事にしてる」

「…何言ってるんだよ…。ああもう、…一回シャワー浴びてくる」

「おう、そうしろ」

「その間、兄さんはこのページのここの問5までやってないとダメだからね。進んでなかったらどうなるか覚えといて」

「……げ…」

 最悪、と呟きながら、燐は自分の椅子に座る。その様子を見ながら、雪男はため息をつく。

 まったく、この暑い日に何をしているんだ。くだらないことばっかりする。





「…ただいま」

「“ただいま”?シャワー浴びてきただけじゃねーのか」

「ちょっとね。で、問題のほう、出来た?」

「……いや…」

 ひょい、と燐のノートを見ると、ちっとも進んでいなかった。辛うじて解こうとした努力の跡が見られなくも無いが、進んではいない。

「…あーあ、せっかく問5まで進んでたら、今買ってきた冷たいところてん一緒に食べようと思ったのに」

「えっ」

「この調子ならおあずけ」

「嘘、鬼かメガネッ、今すぐやる!」

 そう言って慌てて問題を解く燐を見ながら、雪男は苦笑する。

 日差しは相変わらず強く、燐の額の汗が光った。


<終>

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