渦中に居る、という表現が彼には相応しい。何時だって騒ぎの中心に居るのは彼だ、何時だって人を惹きつけるのは彼だ、何時だって僕の心をかき乱すのは彼だ。
 揃って嬉々とした色を浮かべる人に囲まれてけらけらと笑う様は実に明朗としていて、それは人の心を惹きつけて止まず、そしてその笑顔は何より僕の感情をかき乱すばかりである。彼は常に喧騒の中心で、常に友好の中継点で、それ故に彼が世界の中心であるのではないかと錯覚する。

(そんな彼を独占したいなんていうのは、身勝手な話だよね)

 そう思えてしまうからこそ、僕は自分の身勝手な気持ちに蓋をして押し込めて、この自分勝手で卑怯極まりなくて何より下劣な感情が逃げ出さないようにと、常日頃から僕の心を見張っていた。僕の自制というものを振り切って、この感情が彼の元へ駆け出しでもしてしまえば、きっと僕と彼は今までのように笑いあうことはできないだろうから。
 無理矢理に閉じ込めた僕の気持ちは、小さくて臆病な心臓を内側から煩いくらいに叩いてきて、酷く脆弱な僕の心は今にも壊れてしまいそうだ。

(でも、僕が傷付くだけだし、別に)

 けれどそれだったら傷付くのは僕だけで済む、心を壊してしまうのは僕だけで大丈夫なんだ。
 もし彼にこの気持ちを伝えてしまったら、僕だけでなく彼の気持ちまでをも壊してしまいかねないから、世界の中心を僕という矮小な存在が壊してしまうかもしれないから。それはあってはならない事なのだと僕は重々承知しているし、きっと彼を取り巻く人々もその不文律を把握している筈だ。
 彼は世界の中心であると同時に聖域であり、不浄な俗世は決して彼に深入りしてはならないものであると、少なくとも僕はそう信じている。

(彼は、無垢でなくちゃ)

 それは一方的な主観に過ぎないだろうと言われてしまえばノーと言う事はできない、理由はと問われれば当然それが事実であるからに他ならないからだ。
 彼の純潔は全ての不浄から守られるべきそれであるし、当然僕のように俗世に浸かってしまった人間が触れるべきではないのだろう。

(穢れた世界は、彼と共に在るべきじゃない)

 茜色に濁った空を眺めながら、僕は押し込めた心の内で呟いた。僕の下らない欲望、殊に下劣に言うならば情欲と世界を天秤に掛けるだなんて馬鹿馬鹿しい響きだけど、時にふと欲を優先させてもいいような気がしてしまう。
 いっそ穢れた世界の真ん中から彼を攫って、二人だけの世界に閉じこもってしまおうかなんて、そんなこと。

「馬鹿げてるね」

 誰が聴いているわけでもないけれど、やたらと大きく響いた自虐の言葉は僕の心に深く深く傷を付けて夕暮れに溶けた。今日も世界は、彼を真ん中にして回っている。



プ リ ン シ パ ル



2012.09.17


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