紅茶を一口すすった遊馬は小さな悲鳴を上げてカップから唇を離し、ゆらゆらと揺れる琥珀色の湖面を睨み付けながら口元を押さえた。
 その向かいに腰を下ろしていたWは何事だと目を見開いたが、痛みに耐えるように瞳を潤ませる遊馬とほわりと湯気を立てる紅茶を見比べて彼が火傷したのだという事実に行き着く。更に面倒なことには脳が痛みを訴えるが故に口内に唾液が満ちていき、それが火傷に沁みるのか遊馬は足をじたばたさせながら必死に痛みを堪えていた。
 が、暫くすると限界が訪れたのか瞳に溜まっていた涙を溢れさせ、ぽろぽろと泣きながら言葉を零した。

「痛い……」
「……だろうな、ほら、診てやるから口開けろ」

 痛みに震える遊馬を見つめて溜息を吐きながら、Wは遊馬の両頬に手を添えて上を向かせる。
 素直にWを見上げた遊馬は先程の言葉に従いその桜色の唇をぱかりと開いて口内を晒す、途端Wの目には真っ赤に腫れた舌先が飛び込んで来てその痛々しい有様にWは顔を顰めた、これなら遊馬が泣き出してしまったのも頷ける。口の中に薬を塗りたくる訳にもいかない、さてどうするか。

「取り敢えず氷でも含んでろ」
「えっ、やだ沁みそう」

 Wのもっともな提案は遊馬にばっさりと切り捨てられ、Wをギャグ漫画のワンシーンの如くこけさせる結果となった。
 これには少々苛ついたらしいWは、真っ赤な舌を晒しながらじっと見上げてくる遊馬の頬をぎゅっと抓る。ぎゃあと悲鳴を上げながらその手をタップしてくる遊馬と目を合わせ、幼い子供に言い聞かせるように言った。

「あのなぁ、ほっといても痛くなるだけだぞ。火傷の痕がひどく残ったりしてもいいのか?」

 その言葉は流石に応えたのか、遊馬はしぶしぶといった具合に席を立ってキッチンに向かおうとする。
 そんな遊馬の手を取って、Wは童話の王子が愛らしい姫君にそうするようにして遊馬をエスコートした。自分より一回り大きな掌を感じながら、遊馬は恐ろしいものでも見るような目つきで呟く。

「なんか、Wが優しいと下心ありそうで怖い」

 Wの歩みがぴたりと止まった。しまった琴線に触れたかと遊馬は一瞬狼狽したが、次の瞬間には何事もなかったかのようにWが歩き出したので胸をなで下ろす。
 未だひりひりと痺れるような感覚を湛える舌先に指でそっと触れている遊馬にちらりと目をやって、Wは言った。

「あるに決まってんだろ、下心のひとつやふたつ」

 その言葉にぱちくりと瞬きをした遊馬を振り返ってにやりと笑んだWは、その林檎色の頬に唇を寄せる。ちゅ、という可愛らしいリップ音が響いて暫く、何がおきたのか把握できぬまま呆然としていた遊馬ははっと我に返って頬を殊更紅く染め上げた。
 顔から湯気を出しそうな程に紅くなっている遊馬を優しく抱き寄せると、Wはその耳元でくつくつと笑いながら囁く。それこそ、遊馬の体温が急勾配を描いて上昇してしまうような恥ずかしい台詞を。

「早く治さねぇと、キスできないじゃねぇか」

 ふしゅう、と遊馬の顔から湯気が立ち上った。



ひ り ひ り



2012.05.31


 

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