大人と子供という差は些細なように思われるかもしれないが、その実、想像以上にその差は大きく顕著でありそれが溝と化しているのもまた事実だ。
 齢二十歳となり大人と呼んでも何ら差し支えない存在の青年、Xの腕の中に抱きすくめられながら遊馬はアンニュイな溜息を吐いた。腰に回され自らを抱き締める腕の力強さに、些細なことながらも年の差というものを感じざるを得ない。

「……どうした?」

 少々落ち込んだかのように俯いている遊馬に気付いたのか、Xは遊馬の耳元で吐息混じりに囁いた。その行為ですら大人の色気というやつに溢れていて、自分のような幼い子供に向けられるのは不釣り合いではないかと、遊馬の思考は負の方向に傾いていくばかりである。
 尚更落ち込んでしまった遊馬を気に掛けたのだろう、大人の男性のそれと言うべきすらりと伸びた指先が優しく頬を辿った。切りそろえられた爪が頬を擦る感覚は少々こそばゆく笑い声が零れそうになったが、すんでの所で押しとどめる。

「大人って、狡い」

 ぽそり、と小さな声で呟かれた一言にXは虚を突かれたかのように数度瞬きを繰り返した。
 しかしそれから暫く、Xは不意に遊馬を先程より強く抱き締め、わあ、と驚愕の声を零す遊馬の耳元に唇を寄せて囁く。低く甘く、遊馬の幼い頭の中を蕩けさせるように。

「私は子供だよ、幼く我が儘で、愛しい人に甘えたくて仕方がない子供だ」

 耳元に息を吹き込むようにして囁く行為のどこが子供だと言い返してやりたくもあったが、そんなある種淫猥な仕草は幼い遊馬の心拍数を跳ね上げていくばかりだ。
 ばくばくと高鳴ってしまう心臓と熱に浮かされた思考回路は遊馬がまともな言葉を紡ぐのを妨害して、結果的に遊馬の口から零れたのは言葉になっていない声だけだった。

「遊馬、」

 熱を帯びた声で囁かれて反応しない筈がない、遊馬はぴくりと肩を跳ねさせて、潤んだ瞳でXを見遣る。まさしく目と鼻の先にあるXの顔は、質の悪い悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべていた。
 半開きになった唇に細い指先が滑り込み、口内を蹂躙して水音を立てる。ほんの少しではあるが呼吸を制限されて尚更瞳を潤ませ苦しげに喘ぐ遊馬を見つめ、Xは大人の色気に満ちた微笑みを浮かべた。
 漸く暴れることを止めた指が遊馬の口内から抜け出し、つ、とその間に銀糸をひく。荒い息を繰り返す遊馬を愛おしげに見つめながら、Xは誘うように問いかけた。

「きみに、甘えても構わないか?」

 拒否権などあってないようなものだ、意地悪な大人の問いかけに、遊馬は頬を赤らめてひとつ頷く。
 遊馬が紡ごうとした言葉は深い口付けに呑まれてくぐもった音となり、噎せ返る程甘い部屋に響く事はなかった。



こ ど も た ち の 恋



2012.04.23


 

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