まるで葬列のようにずらりと列んだ人形の硝子の視線を受け止めながら、遊馬は静かに部屋の主であるWの帰りを待っていた。ふわふわのソファーに腰掛けて紅茶を啜る遊馬の姿はまさしく、暇人の一言に尽きる。琥珀色の水面から立ち上る湯気が鼻先を掠めて消えていくのをぼんやりと眺めて、遊馬は緩くため息をついた。

「……W、遅いなぁ」

 普段はやけに嗜虐的で尚且つ外道と呼ぶに相応しいWではあるが、そんな彼でも隣にいないとどことなく寂しい。隣に座らされたぬいぐるみを抱き締めながら、遊馬は瞼を落とす。穏やかな吐息が静かな部屋に響き始めるのはそれからすぐの事だった。



「おや、」

 帰ってきたWが真っ先に目にしたのは、ソファーに腰掛けてすやすやと眠る遊馬の姿だった。テーブルに置かれたカップの中身はとっくの昔に冷めて、虚しく琥珀色を晒すだけ。相当長い時間、彼が独りきりで居たのであろう事が伺える。
 そして極めつけは、遊馬がしっかりと抱き締めているぬいぐるみ。独りきりを嫌う遊馬の気休めになればと、Wの数少ない良心のもと作られた、金と赤銅の髪に右頬の傷痕に見立てた縫い目が特徴的な、要するにWに似せたぬいぐるみなのである。それをぎゅう、と抱き締めながら寝息をたてて眠る遊馬を見つめて、Wは。

「まったく、可愛らしいことだ」

 とろけるほどに甘い声音で優しくそう呟いて、するりと遊馬の薄桃色に色づいた頬を撫でた。眠っている遊馬は、くすぐったさから無意識のうちに笑みを零す。

「……ですが、目の前に本物が居るっていうのに、模倣品に縋るのは感心しませんねぇ」

 眉をひそめてそう言い放ったWは、遊馬が抱き締める自らを模した人形を押しのける、若干荒々しいその行為は、Wの小さな嫉妬を体現しているかのようで。愛しい少年の腕の中を独占していたぬいぐるみをしてやったりとばかりに嘲笑しながら、微かに身動ぎをした遊馬の額に唇を寄せた。

「貴方は僕だけを想っていればいいんですよ、遊馬」

 甘く甘く囁かれたWの言葉に、葬列のようにずらりと列んだ人形だけが耳を澄ましていた。愛しの少年が目を覚ますまで、あと少し。



ド ー ル ハ ウ ス



2012.03.22


 

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