がしゃん、とけたたましい音を立てて割られたカップを見つめ、彼は唖然としながら半ば泣きそうな顔で立ち尽くしていた。知ってる、そのカップが彼のお気に入りだって事を。ルビーの瞳は、どうしてこんなことをしたのと訴えかけてくる。弱気な詰問をしようと見つめてくる潤んだ目にぞくぞくした。

「あっ、ごめんね、遊馬。悪気はなかったんだ」

 一応弁明しておくけれど、先程の行為が悪気に塗れていたことなんて彼はお見通しだろう。
 いつだってそうだ、僕は彼の気に入ったものや彼が大切にしているものを片っ端から壊していく、そうして彼はその空虚を埋めるように新しいお気に入りを見つけて、僕が再びそれを壊す、その繰り返し。
 彼のものを壊す度、言いようのない罪悪感と形容しがたい高揚感が同時に僕を襲ってくる。大切なものを壊されてぽろぽろと泣きじゃくる彼を見る度、胸に満ちるのは少しの同情と溢れそうな程の優越感。
 彼の大切なものを片っ端から奪っていく、その行為は彼と僕の関係における僕の優位性を形容しているようで、だからこそ僕はその行為に依存していた。

(つまらない独占欲だ、)

 遂にはらはらと涙を流して泣き出してしまった彼を慰めるように抱き締めながら、僕は心の中で一人そうぼやいた。
 この略奪にも似た行為は、幼い恋心とも呼べぬ曖昧な感情を抱いた少年が少女を虐める、そんな行為にそっくりだ。彼のこころを惹きたくて、彼に大切にされているものがひどく羨ましくて。きっと、彼の中でいちばんになりたいからこそ、こんな幼い略奪と暴虐は行われるのだろう、彼の意志など関係無しに。

(これじゃただの独りよがりじゃないか)

 分かっている、そんな事をしても僕が彼のいちばんに成れないなんてことは、僕自身がよく理解していた。今、彼の頭の中では消えてしまった大切なものへの無垢な執着心とそれを壊した僕への幼い悲憤の言葉が渦巻いているはずだ。
 嗚咽をあげ、真珠のような涙を零す彼を見つめながら、僕は自分の穢さに嫌気が差して、重い溜息を吐いた。彼の心は、いつになったら僕を受け入れてくれるのだろうか。



純 愛 エ ゴ イ ス ト



2012.03.21


 

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