ショートケーキの上に乗っていた苺を食べるために開いた口から覗く赤い舌が何よりも美味しそうだなんて、言えるわけがなかった。言ってしまったら最後、僕は彼に変態のレッテルを貼られてしまうだろう。
 真っ赤な苺や甘い甘い生クリーム、ふわふわのスポンジケーキを頬張りその頬をフランボワーズ色に染め上げる姿だって、食べてしまいたいほどに愛らしかった。きっと彼は砂糖より甘く、スポンジケーキより柔らかいのだろう、そうに決まっている。

「……V?」

 そんな思想に耽っていた僕は、彼の声で現実に引き戻された。
 フォークを片手に不思議そうな表情でこちらを見つめてくる瞳だってクランベリーみたいな色をしていて、無意識のうちに生唾を飲む。
 あどけないその瞳が、とても美味しそうに見えた。当然、口には出さないけれど。

「どうしたの、遊馬」

 にっこりと微笑んであげれば、彼は照れたように視線を逸らしながらケーキを一口頬張る。
 艶やかな唇が白い生クリームを誘うように緩慢に開く、その光景までもがひどく煽情的で。その唇に触れる銀色のフォークが羨ましかった、無機物に嫉妬するなんて不思議なことだ。
 金属ごときに嫉妬心を燃やしてしまうほどに僕は彼のことが愛しいようだ、流石にそこまでだとは思わなかった、僕は心底彼に惚れ込んでいるのだろう。周囲からしてみればもはや狂気だとドン引きされるかもしれないが、僕としてはこの愛情が歪んだものだという認識は一切無い。これが僕の精一杯の愛情なんだ。

「……V、その……ちょっと、見すぎ」
「え、あぁ、ごめんね」

 流石にじっと見つめられては居心地が悪いんだろう、上目遣いに此方を見やりながらそう言われた。
 口では謝るものの、目をそらせない。飴玉のように丸い瞳が、フランボワーズのように赤い頬が、スポンジケーキのように柔らかな肌が、苺のように艶めく唇が、僕を魅了して離さなかった。
 そんな彼のことだから、どこを食べてもきっととろける砂糖菓子のように甘いんだろう。

「食べちゃいたい、」

 小さく呟いたその言葉は、幸い彼に聞かれることはなかったらしい。琥珀色に輝く紅茶は、とっくの昔に冷めてしまっていた。



ヘ ン ゼ ル と グ レ ー テ ル



2012.03.05


 

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