まるで幼い子供のように甘えて寄りかかる大きな体躯を抱きとめて、遊馬は頬にかかってくる長い髪を手で梳いた。遊馬より一回りも二回りも大きな身体を持つXは、その身を遊馬の細腕の中に投げ出している。
背中に回された腕に力が込められたのに気づいて、遊馬は穏やかに微笑みながらXに声をかけた。
「どうかしたのか?」
その慈愛に満ちた声音での問い掛けにXは伏せていた瞼を上げて、ゆるゆると視線を動かし氷のような瞳を遊馬へと向けた。柘榴の果肉のように紅く透き通った瞳と、視線がかち合う。
ふ、と緩く溜息をついて、Xは殊更甘えるように遊馬の肩口に顔を埋めた。温く甘い吐息が首筋を撫で、長い髪が剥き出しの腕を擽る。くすぐったさに笑いがこぼれた。
「……、眠い」
まるで呟くように吐き出された言葉に数度瞬きをした後、遊馬はXの長身を引きずるようにしてソファーへと腰を下ろした。未だ遊馬を抱き込んだままのXに柔らかく微笑み、その髪を梳いて声をかける。
「ほら、膝貸してやるから」
Xは遊馬を抱き締めていた腕を名残惜しそうに離し、そのまま倒れ込むように、遊馬の膝を枕にして横たわった。微睡みかけた切れ長の瞳が、じっ、と遊馬を見つめる。
やはり幼い子供のようだと思いながら、遊馬はXの前髪を掻き上げてさらけ出された額にキスを落とした。
「おやすみ、」
ゆっくりと眠気の淵に沈んでいくXの穏やかな寝顔を見つめながら、遊馬は静かにそう零して、自らも瞳を閉じる。
しんと静まり返った部屋に、二人分の寝息が緩やかに響いていた。
い ば ら 姫
2012.02.24