放課後の静かな教室に、遊馬はまるで溶け込もうとするかのようにぽつんと座っていた。頬杖をついて、橙色に染まり始めた窓の外を眺めながら。
 そんな静寂の中で唐突に、アップテンポな電子音が響き渡る、携帯への着信を告げるお決まりの音だ。ぱき、と軽い音をたてて携帯電話を開き、通話ボタンを押す。発信者は、非通知。

「……もしもし?」

 若干の不安を抱きながら、通話相手に声をかけた。暫くの間、そしてその後に雑音混じりの低い声が、

『もしもし、今、職員室の前を通ったところだ』

 そう言って、電話はぶつりと切れてしまった。虚しく響くノイズに顔をしかめながら、遊馬は悪戯にも似た電話内容に首をかしげる。なんだか、聞いたことがあるような、無いような。
 悩みに悩む遊馬の手の中で、携帯電話が再び軽快で電子的な音楽を刻む。やはり、非通知。

『もしもし、今、二階に着いたところだ』

 そしてまた同じように、電話はぷっつりと切れてしまった。通話時間の表示された画面を見つめながら、遊馬は苦い顔をして携帯電話を机に置いた。聞いたことのあるような電話越しの声、職員室から二階への移動、謎は深まるばかりだ。
 ショートするほどに頭をフル回転させる遊馬をよそに、携帯電話は再び着信を告げた。表示はやはりと言うべきか、非通知である。

「おい、いい加減に……」
『もしもし、今、三階に着いたところだ』

 ぴた、遊馬の言葉が止まった。今更気付く、この通話相手は遊馬の居る三階の教室へと近付いてきているのだ。そしてパズルが組合わさるように連想されるのは、ひとつの怪談。電話は切れることなく、遊馬の耳元で静かに雑音混じりの言葉を紡いでいた。

『今、理科室の前を通ったところだ』

 こつこつこつ、やけに重く聞こえる足音が此方に近付いてくる。

『今、教室の前に居る』

 こつ、足音が止まって、代わりのように自動ドアがしゅっ、と軽い音をたてて開いた。

『今、』

 近付く足音、延びてくる影、動かない指先、そして。

「お前の後ろに居る」

 重なる、声。弾かれたように振り返った先には携帯電話を片手で弄び、悪戯好きな子供のように笑う少年の姿があった。



真 似 事 メ リ ー


(意味も無くなんでと呟いた言葉に彼は先代が死んだと言って笑った、夕焼け空は半ば紫に染まっている、)


2012.02.03


 

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