街中で、まさしく公衆の面前でいちゃこらいちゃこら。バカップルと呼ぶにふさわしい恋人二人組が通りすがるを運悪く目撃してしまった遊馬の機嫌は瞬間的にがっくりと下降して地面にめり込み、そのままマントルにまで到達するほどに急速落下していった。なんにしろ、見ていて気持ちの良いものではない。メルヘンチックな二人の世界に入り込んでしまったカップルは目の毒だ。
 ともすればハートでも飛んできそうなカップルの勢いには、流石に辟易させられる。全く、恋は盲目というのは少し違うが、少なくとも二人の周囲に盲目になってしまうことは間違いなさそうだ。段々と苛立ちすら沸いてきた遊馬の胸中に、一つのワードが浮かぶ。

(あれが俗に言う――)
「リア充ってやつか」

 突然、隣から飛んできた言葉はまさしく今思い浮かべていたワードそのものだった。まるで心でも読んだかのようにかけられた声に驚いて、半ば反射的に振り返る。深い海に似た藍色が視界に飛び込んできて、見馴れてしまったその色の持ち主の渾名を呼んだ。

「シャーク、なにしてんの」

 ついでとばかりに言い放った質問への返答は一言すら無く、代わりに頭をくしゃくしゃと撫でられる。明らかな子供扱いに頬を赤くしながら、凌牙の視線が向いているカップルに目をやった。二人は相変わらずいちゃつくばかりだ、やはりその周囲には数え切れないほどのハートが散っているように思えて、遊馬は再びいらいらが沸き立ってきて、つい眉根を寄せた。

「なんつーか、視界の暴力だよな」

 遊馬に同じく苦々しい表情をした凌牙の口から出てきた言葉には、心底同意せざるを得ない。的確な表現に頷きながら、二人揃って半ば公害染みたカップルを睨み付けた。しかしながら、二人だけの世界に入り浸っているカップルは何処吹く風で桃色のオーラを纏いながら甘い雰囲気を作り上げていた。やはり恋は盲目、周囲に向ける視力など彼らにはありもしないのだと思わされる。

「爆発すればいいのに」

 吐き捨てるように呟かれた遊馬の言葉に、凌牙は小さく笑った。藍色の瞳に遊馬の姿が、赤色の瞳に凌牙の姿が映り込む。

「俺らも爆発する側になりてぇよな」

 どこか遠い目をしながら、凌牙が口角を上げてそう零す。

「……思わなくはない、よ」

 返事に幾分詰まった様子で、遊馬がぼそりと返した。それに凌牙はくつくつと喉の奥で笑って、遊馬の髪をかき回すように撫でながら、からかうように声をかけてきた。

「素直になれよ、九十九遊馬くん」

 明らかに馬鹿にしている、だが親しみに満ちたそのからかいに、遊馬はおどけるようにして頬をぷくっと膨らませながら凌牙の脇腹を肘でつついた。唐突な攻撃に凌牙の口から、うっ、と小さなうめきが漏れたが、やはりそれもおふざけ染みた響きを持っていて。

「その言い方、なんかむかつく」

 くすくす、二人とも揃って笑いながら言葉を交わす。カップルは、いつの間にか何処かに行ってしまっていた。



テ ロ リ ズ ム


2012.01.08


 

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