近くで見れば案外長い睫毛だとか、日焼け気味のくせに綺麗な肌だとか、新しい発見は一杯ある。遠くから見ればその存在感だとか、集団における重要性だとか、気付かされることも山程ある。幼馴染みと呼ぶに相応しい彼との日々はまさしく探求と驚愕の積み重ねで、何時どこで何が起ころうと、それを輝かしい未来へと変換する可能性を秘めた日常的な奇跡でもあった。
 此の世に生まれ落ちて早十三年、辿ってきた道筋をふと振り返れば、そこここに彼の、遊馬の姿が伺えて思い出す度に心臓の辺りがじんわりと温かくなるような、そんな気がしてならない。思えば遊馬と共にいたからこその現在であり、此所までに辿り着く過程において彼が重要な立場に居ないという方が無理な話だった。大人から見ればたったの十三年、けれど私達から見れば一生分の長い道のり。時に対する価値観の相違はあれど、しかし遊馬という存在が私の人生での起点であるのは誰の目から見ても明らかだった。

(だからこそ、気付くこともあるってわけで)

 世界的なイベントでもあったあの騒動以来、遊馬の周囲に集う人間は爆発的な勢いで数を増していた。それは勿論、遊馬という中継地点を使って他の有名人らと関わり合いになりたいという連中も含めていたけれど、決してそれだけでなく、遊馬本人に魅せられた人々が集ってきていたのもまた事実。遊馬を好いてくれる人が増えたということは、私にもささやかな喜びをくれた。
 けれど、素直に喜んでいるばかりでもいられない。羨望の視線というのは喜ばしいと同時にどうやら随分と気疲れするものらしくて、集う群衆を前にした遊馬の顔に浮かんでいるのが時として不安や焦燥を纏っていたということに対する僅かな懸念が私にはあった。昔からの無茶は相変わらずだけれど、それが己の為だけでなく半ば無関係に等しいような者の為に行われているのならば、それはまた遊馬らしくもあり、私の不信感を加速させるばかり。

「疲れてない?」
「ん、全然」

 嘘、という言葉は呑み込まれた。私のふとした質問にも満面の笑みで答えてくれる遊馬ではあるけれど、彼はどうにも隠し事が下手で、白い歯を見せて笑う表情の中にどこか後ろ暗いものがあることは私には手に取るように分かった。また彼は、何もかもを一人で背負い込んでいる。
 隣に誰も居ない訳じゃない。寧ろ、遊馬の隣にはいつだって誰かが居てくれる。それは私であったり、アストラルであったり、時にシャークであったり、頻度は少なかれどカイトであったり、指折り数えていけば両の指など僅かばかりのうちに足りなくなってしまう程に。だからこそ、言えないような不満がついて回る、少なくとも私の胸中には。

「そんなに頼りないかなぁ、」

 零れた声はまるで溜息のように重苦しく、聞く人の心をほの暗い水底にゆっくりと沈めていくようだった。語尾はやはり喉奥に仕舞いこまれて、そのまま肺へと真っ逆さまに落ちていく。胸の内でわだかまる灰色をしたこの感情を伝えて良いものかどうか、答えは分かりきっているのに私は何時でも自分の心に問いかけるばかり。自分の情けなさにほとほと呆れ、それと同時に無力さを知って、ああ、だから頼りないのだと嫌な自覚を持たされる。
 力も信念もまるで足りない私に彼の支えなどつとまるわけもなく、結局、昔から一番近くにいるくせして拠り所という狭くて快適な居場所を誰かにおめおめと譲り渡してしまう。せめて遊馬のようにもっと気丈で居られたらいいのに、そう思いながら私は膝の上で拳を握り締めた。掌の中で潰れたのは虚勢か欺瞞か果たしてなんだったのか、どうにも疎い私には分からない。食い込んだ爪と滲む赤い血が私の無力を確と証明するようで、無性に悔しかった。



ル ー ム



2014.01.16


 

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