(当作品は『ユア』の続編です。単体でも問題なく読めますが、該当作品を先に読まれることをおすすめします。)



 毛布にくるまれてすやすやと眠る遊馬の姿を見つめながら、真月はどことなく愁いを帯びた、言うなれば寂しげな色をその顔に宿していた。真月が遊馬のことを愛しているのに何ら嘘偽りは無かったし、彼の総てを愛しているというのも勿論事実に他ならない。
 遊馬の口から零れ落ちた疑問は、真月の心にも波風を立てていた。彼は自分のどこが好きなのかと問うたが、それを問いたいのは真月とて同じだ。それどころか、真月の胸中にはそれ以上に遊馬に問いかけたい疑問が、その真ん中にどっかりと腰を据えていたのである。

(きみはいったい、どっちの僕が好きなんだろう)

 しかしそれは問うてしまえば、明らかに二人の関係に亀裂を入れるほどに重々しい疑問だった。心優しい遊馬のことだ、そう問えば十中八九どっちも好きだと口にするだろうが、それは真月にとっては納得のいかない答えでもある。
 表だって人々と時を共にする真月零は、決して真月本人ではない。この世界で普通の人間として活動をするため、自らの中で適当に造り上げた、本来ならば存在することのない人格こそが、真月零なのだ。それが自分と同等に愛されるなど、気分がいいことの筈もない。
 腹の内で怒濤のように湧き上がる、独占欲とも嫉妬ともつかない、しかし間違い無く黒い欲望に満ちた感情は、確実に真月の恋心を蝕んでいた。清かったはずの恋を、どす黒く穢らわしい、最早恋とも呼べないものへと変えようと、じわじわ、真月を追い詰めていく。

(目を覚ましたら、きいてみようか)

 ふと、そんな勇気が湧いた。これを勇気と呼ぶか無謀と呼ぶか、はたまた何と呼ぶかは判断しかねるが、少なくとも真月自身にとってそれは紛れもなく勇気であった。
 そうして彼に問うたとき、彼は何と答えるのだろうか。散らかってやたらと狭苦しい頭の中で思い描く回答は、何にしろ、真月の心を良かれ悪かれ高鳴らせた。無垢極まりない笑顔を浮かべて、彼の口から飛び出す言葉は、己の心臓を貫くのかそれとも深く抉るのか。
 もし、彼の口から博愛の言葉が転がり落ちたら、どうしてくれよう。二人の自分が愛を二分しているのならば、片割れが居なくなったとき、その半分の愛は一体どこへ行くのだろうか、決まっている、残りの片割れへと向かうのだ。それならば、表立って人々と言葉を交わすあの真月零を殺してしまえば、総ての愛は、残った真月零へと向かうのだろうか。

(ならば殺そうか、わたしが、ぼくを、)

 そうすれば彼の愛は総て自分のものだと、真月は笑んだ。唇は三日月のような笑みを喜色と共に湛え、すう、と細められた紫水晶の瞳は幸せを滲ませている。この上無い狂気に溺れた有様は、誰が見ても悲鳴を上げたくなる程におぞましく、しかし明らかな歓喜に満ちていた。
 ふっくらとした桜色の唇に優しく触れて、さあ彼が眼を覚ますのはまだかまだかと言わんばかりに、真月はカーテンの隙間から覗く外界をじっと窺っていた。死刑は明朝だ、朝日が昇る時に彼の下す判決は如何ほどか、真月の心は高鳴るばかりだ。



ダ ブ ル キ ャ ス ト



2013.01.29


 

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