どこが好き、という至極単純な質問は、その明解さの割には真月を悩ませる事となった。己が一人の少年を半ば歪んだ形で慕っている、分かり易く言えば異性に抱くべき筈の恋愛感情を抱いている、という自覚は確とある真月だが、実際どこが好きかと言われると言葉に詰まってしまう。
 真月からしてみればこの愛に理由など無く、ただ遊馬が愛しくて堪らないが故、到底胸中に抑え込めない情を捧げていると、それだけなのだ。

「全部、ですかね」

 だからこそ、真月のその回答は実にまっとうなものであったし、真月本人としてもそれ以外にどう言えばいいのか判断に困る所だった。
 しかし遊馬としてはいたく不満だったらしく、ぷう、と頬を膨らませてそうじゃないと言わんばかりに真月を見つめる。きらきら輝く瞳に見つめられて真月は一瞬言葉を詰まらせて、居心地が悪そうに視線を逸らした。
 途端、遊馬はきっと眉を寄せて不機嫌を露わにし、あまつさえつんとそっぽを向いてしまった。まるで年頃の少女のような反応に、真月はどうしようかと困りに困ってまごつくばかりだ。

「えと、その、ごめんなさい、遊馬くん……でも、嘘じゃないんです」

 ぽそりと真月が零した言葉に、そっぽを向きっぱなしの遊馬は、何が、とだけ返す。嘘じゃない、という言葉が十中八九先程の好きなところは全部という返答に対してのものだと、遊馬も十二分に解っているはずだ、なにもそこまで頭が回らない訳ではない。つまり、そのやたら強気な質問は、或いは詰問と呼ぶべきそれは、遊馬本人にしてみれば半ば反射のように口から飛び出た言葉だったのだ。
 遊馬の質問を受けた真月は、にこりといつものように優しく笑むと、膝の上で拳を作る遊馬の手をそっと解いて、それにやたらと生白い指を絡ませた。するり、と手の平を這い回る指の感触はやけにくすぐったい、遊馬は危うく零れそうになるくすくす笑いを圧し殺す。

「きみの、全部が好きだってこと、ほんとですよ?」

 次いで飛んできた返事は、何時もより遙かに真摯な響きを持っていた。誠実極まりなく、それでいてどこか艶めかしい声音で紡がれた言葉に、遊馬はふるりと小さく肩を震わせる。
 真月の生温い指先が、遊馬の柔くふっくらとした手の平から指先に至るまでを確かめるようになぞる。薄く焼けた肌の上を、白く細い指がまるで獲物を求める白蛇のように這っていた。
 厭らしい指先の蠢きがどうにも居心地悪く、遊馬は逸らしていた視線を再び真月へと向かわせる。それに気付いた真月は遊馬の手を緩やかに掬い上げ、手の平に唇を寄せて小さな音を響かせながらキスをした。

「当然、きみの身体も好きですよ、」

 そう口にすると、次いで真月は遊馬の指に舌を絡め、あまつさえそれを口に含む。わあ、という悲鳴には耳を貸さず、ちゅくちゅくと母乳を求める赤子のように、柔い指先を舐め回し、強く吸い、時に軽く噛み付いて。
 あまりにも異様で、克つ不思議と厭らしい光景に遊馬は瞳を潤ませながら、こくん、と口内に溜まりきった唾を飲み下した。折れそうに細い首筋がひくりと蠕動する様を見遣って、真月はその紫水晶の瞳をゆるく細めて笑むと、指先に柔く歯を立てた後、涎に塗れた指を解放する。
 口端から垂れた一筋の涎を荒く拭い、真月はいつの間にか欲を滲ませたその視線を、頬を染めて狼狽える遊馬へと向けた。するりと伸ばした右手が、その手に生えた指が、慈しむかの如く遊馬の胸元を、心の臓に一番近い場所を、優しく撫でる。

「でもね、ぼくはきみの心が、いちばん好きなんです」

 とくん、とくん、と次第に早まっていく鼓動を指先で享受しながら、真月はにこりと笑んで言った。うら若き乙女のように頬を紅く染めた遊馬は、声もないままに、どういうこと、と言いたげな視線を真月へと返す。その視線を受けてか、真月はくすくす笑い声を零して、再び口を開いた。

「好きなんです、純真無垢で、慈悲深くて、時に素直になれないきみの心が。その心がきっと、ぼくの世界の中心なんです」

 早鐘のようにどくどく脈打つ心臓の音に紛れて、遊馬の耳には、真月のそんな言葉が届いていた。殊更加速する心拍の最中、胸元を布越しに撫で上げる指先がやはりくすぐったくて、そしてあまりにもどかしい。
 しんげつ、とどこか艶めかしく呟かれた呼び声を耳にして、真月は、はい、とだけ返事をして遊馬のネクタイを緩やかに解いていく。熱に溺れきった瞳を向けられて、真月は再びにこりと優しく微笑んだ。

「好きですよ、遊馬くん、きみのすべてを愛してます」

 そうして乾ききった唇に落とされた口付けは、二人の箍を外すのに十分だった。



ユ ア



2013.01.21


 

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