「あ、死んだ」

 隣でがちゃがちゃと手元のコントローラーを操作していた手が、不意に止まった。その直ぐ後画面一杯に映し出されたのは、目を覆いたくなるような血飛沫と、やたらおどろおどろしく記されたゲームオーバーの文字。
 作り物の死を前にして、隣人は無感動にコンティニューを選択し、セーブ地点から死と隣り合わせの冒険を再開した。
 衝撃も何も無い程に軽い銃声が、スピーカー部分から連続して響き渡る。出会い頭に頭部を一撃で吹き飛ばされ、恰も柘榴のような有様となってしまう敵の何と哀れな事か、彼らの死ほど理不尽なものは恐らく存在しないのでは無かろうか。
 銃を撃つ度びしゃりと音を立てて、古びた壁や床、あまつさえ天井にまで飛び散る生々しい血痕。
 初見にしては容赦無く殺すものだ、とセカンドプレイヤーとしてコントローラーを弄りながら思う。怖い怖いと言っていた割に、大分慣れてしまったというか感覚が麻痺してしまったようだ、最初はそれこそ臓物がぱーんと飛び散る度に悲鳴を上げていたが。
 考えている間にも敵は続々此方にやってくる、全く気が抜けやしないと内心悪態を吐いて取り敢えず頭部を撃つ。奇声とも悲鳴ともつかないそれを上げて無残にも蜂の巣になる敵を踏み倒し、フロア攻略に勤しむことにした。

「お前、本当に操作下手だな」

 先程再開したばかりだというのに、早生命力を半分近く削られてしまっている隣人に苦笑した。時折意識をそちらに向けながらも、迫り来る敵を倒す事は忘れない。リロードがひどく面倒になリボルバーからマシンガンに持ち替えて、都合良く一塊になってくれている敵を取り敢えず撃った。
 何重にもなってスピーカーから聞こえるくぐもった奇声が、何処か笑える。それでも生き残っている奴らの姿が、無駄に苛ついてどうしようもない。

「ロケラン一発撃っとけ」
「らじゃ、」

 言うが早いか、目の前にぼんと爆炎が広がって、辛うじて生き残っていた敵まで綺麗に殲滅完了。こういう反応は恐ろしく早いのに、何故中途半端な所であっさりと死ぬのか不思議でならない。
 爆発やらで焼け焦げた床、壁、天井と松明のように燃え盛る敵を踏み越えて、奥へ奥へと突き進んでいく。次の部屋でフロアボスを撃破すれば、晴れてステージクリアだ。さて扉を蹴破っていっちょ小規模戦争でも勃発しようか、と構えたところで。

「あっ」

 ぐちゃっ。
 スピーカーから暫く前のそれと変わらぬ音程で響いた無残というべき音に、二人揃って動きが止まった。まさかと思って画面を見つめていれば、思った通り。画面に飛び散る血飛沫とじわじわ浮かび上がるゲームオーバーの文字が、無感動にべったりと張り付いていた。

「……死んだんだけど」
「……モード選択間違ったな、これ」

 イージーモードにしておけばよかった。隣人がコントローラーを弄るのを見つめながら、メインメニューを前にしてそう呟いてみる。どうも俺達の最終決戦はまだまだ遠いらしかった。



ト リ ガ ー



2012.12.05


 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -