▼ 見る 俺たちはお互いの病室を知ってから、良くどちらかの病室に遊びに行くようになった。 殆ど俺が宮本さんの病室に行く事が多いけれども。 今日も宮本さんの病室に行こうと足を動かし、部屋の前まで来た。 病室の扉をノックすれば、宮本さんの「どうぞ」と言う明るい声が聞こえた。 扉を開けると、宮本さんが俺を真っ直ぐに見つめた。 ふと、何故か違和感が頭をよぎった。 気のせい、だと思い、そのまま室内へと足を踏み入れる。 「こんにちは、宮本さん」 「こんにちは、幸村君」 やはり、何かが可笑しい。 だがその違和感に気づけず、首を傾げる。 すると、宮本さんが柔らかな笑を称えて口を開いた。 「幸村君の髪、綺麗な藍色なんですね」 「え…」 そうだ、さっきから感じていた違和感はこれだ。 今日は宮本さんと目が合うんだ。 「…目が」 「私の目、こうやって不定期ですが、見えるようになる事があるんです、今日は両目、色もちゃんと見えますが、片目だけだったり、見えてても全て白黒だったり…」 「そうなんですか…」 宮本さんは脳裏に焼き付けるかのように、俺をまじまじと見つめる。 それがちょっと恥ずかしくて、視線を逸らした。 「あ、すみません…思わず見とれてしまって」 どうして彼女は率直な感想を言葉にしてしまうのだろうか。 おかげでで顔を上げられなくなってしまった。 「…宮本さんっていつから入院してるんですか?」 顔を背けながら、ベッドの近くにある椅子に腰を預け、話を逸らした。 「…中1の夏、ですね」 宮本さんがあまりにも儚げに笑うので、俺は言葉を失ってしまった。 この話題には触れないようにした方が良さそうだ。 そう思い、続けて吐こうとした言葉を口の中で咀嚼し、飲み込んだ。 「幸村君がこの間持って来て下さった花、こんなに綺麗な色をしていたんですね」 #name1さんはベッドサイドにあった棚の上に飾られた花瓶に入ったシンビジウムに目を移した。 この淡い桃色のシンビジウムは、俺がこの間、母さんに頼んで買って来て貰った花だ。 宮本さんにピッタリだと思って。 「気に入って貰えた?」 「はい、綺麗ですね」 シンビジウムの花弁にそっと触れる宮本さん。 喜んで貰えて、良かった。 「幸村君、シンビジウムの花言葉って何ですか?」 「…飾らない心」 「飾らない心、素敵な花言葉ですね」 そう言って微笑む宮本さんに、飾らない心という花言葉が本当に合っていると心の底から感じた。 「幸村君、お花好きなんですか?」 「え?」 「花言葉を聞いた時、すぐにお答えになったので」 「…そうですね、好きです」 「私も好きです」 口元に手を添えて笑う宮本さんに俺も釣られて笑った。 このまま時が止まれば良いのに、なんて願ってしまうのは悪いことだろうか。 *2012/10/29 (修正)2015/12/22 |