話す

あの日から、俺は屋上へと足を運ぶ事が多くなった。
だけど、宮本さんとは会えずじまい、入れ違いになっているのか、屋上に来ていないのか。
それでも淡い期待を抱いて俺は今日も屋上に行く。



▽▽▽



ぽかぽかと暖かい陽気を肌で感じながら、ベンチに座った。
そして蓮二から借りた読みかけの小説を栞を抜いて読み始める。
暫く小説を読みふけっていると、屋上の扉が錆びたようにギギッと鳴ってから、ゆっくりと開いた。


「…あ」

彼女だ。
俺は思わず言葉を零してしまった口を手で塞いだ。
やはり目が不自由なせいか、キョロキョロと周りを見渡している。
助けたほうが良いんだろうか、と考えていると、宮本さんがふと、俺を見た。
いや、正確には見えていないはずなのに、まるで見えているかのように俺をじっとその大きな目で見つめている。


「もしかして、幸村君ですか?」

「え…」

何で分かったんだろうか。
軽く動揺する反面、俺のだと分かってくれたと言う嬉しさが体内をじわりと包み込んだ。
宮本さんはゆっくりとした足取りで、俺に近付いてくる。
俺も宮本さんに歩み寄り、手を握ってベンチまで誘導した。


「ありがとうございます、幸村君」

「…どうして俺だと分かったんですか?」

「私、目が見えなくなって暫く経つんです、だから大体の人はオーラと言うか、気配で分かるようになったんです」

ふんわりと笑う宮本さん。
それは凄い事なんだろう…、俺は改めて宮本さんに興味を抱いた。


「俺からもオーラが出てるんですか?」

「はい、幸村君のオーラは…白くて、優しくて、だけど儚くて、そして芯の通った強さがあります」

宮本さんは目が見えないから、俺を外見で判断しようとはしない。
いや、彼女なら目が見えてても外見で判断などしないだろう。
他の人から「幸村君って優しそう」と言われたら、何を見てそう思ったのかと少しだけ不快になるのに、宮本さんには言われても何も思わない。
寧ろ、嬉しい。


「…あ、ありがとうございます」

今、彼女の目が見えなくて良かったと心から思った。
俺の今の顔はきっと、林檎のように赤く熟れてしまっていると思うから。


「幸村君、何歳なんですか?」

「俺は14歳、中学3年生です」

「あ、じゃあ同い年なんですね」

と言うことは彼女も中学3年生なのか。
同い年、と言う共通点が少し嬉しかった。


「そうなんですか、中学校はどこですか?」

「立海大附属中学校です」

「え…」

まぁ、今は暫く行けてないですが…言い加えながらと苦笑する宮本さん。
宮本さんも同じ立海?
確かに、立海はマンモス校と言うか、生徒の数は沢山いる。
俺が宮本さんのことを知らないと言うのはあり得る。
だけど自他共に有名だと認めている男子テニス部レギュラーの、しかも部長の俺を知らないなんて。
自意識過剰のように聞こえるかも知れないが、本当なのだから仕方がない。


「…俺も、立海です」

「そうなんですか!一緒の学校だったんですね」

宮本さんはふんわりと笑うだけだった。
今度蓮二が来たとき、彼女について聞いてみようかな。


「…風が出てきましたね、そろそろ戻りましょうか」

「そうですね、そうしましょうか」



▽▽▽



俺は宮本さんを送って行こうと、病室の番号を聞いた。


「…え」

「どうかしたんですか?」

「宮本さん、302号室なんですか?」

「はい、そうですよ」

「俺の病室、301なんです」

少し驚いたような表情をしてから「じゃあ、何時でも会えますね」と笑った宮本さんに、また心臓がトクリと疼いた。



*2012/10/19
(修正)2015/12/22




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