迫り来る想い


「ふぅ…」

膝に手をつき、息を整える。
コートには沢山のテニスボールが転がっとる。
あぁ、もうこないな時間か、片付けせんとなな。
俺は部活が終わった後、いつもこうやって自主練をしとる。


「…はぁ」

ボールを片付ける前にコート脇にあるベンチに座る。
そっと目を閉じ、思い浮かぶのは部活仲間のこと。
やっぱり南は可笑しかった。
財前も財前で何や考え事しとったし。
今日の練習、俺は何時もならあり得へんミスするし。
最悪や。


「白石君って完璧やんな!」

「格好えぇし、勉強も出るし!テニスも勝って当たり前やろ!」

「才能って凄いんやなぁ!」

嗚呼、胸の奥でどす黒い塊が這いずりでる。
クラスで聞いた会話を思い出してしまった。
“才能”、“当たり前”。
馬鹿にするのもえぇ加減にせぇや。
勉強もテニスも、全部努力したんや。
それを“当たり前”やと、“才能”の一言で片付けんなや。
誰も俺の努力を見てくれへん、誰も俺を見てくれへんのや。


「…ほんま、何やねん」

「…あ」

何だか悲しゅうなって、目を伏せた。
目頭に込み上げてきよる物を何とか抑えとった時、最近よう聞く声が聞こえ、思わず振り向いた。


「やっぱり、白石君だ」

「…雨宮さん?」

その声は、最近転校してきた雨宮さんの声やった。
雨宮さんはフェンスに近付いて来よったんで、俺もベンチから立ち上がり、フェンスに近づく。


「…こんな時間まで練習してるんだ」

「そら、まぁ…」

「へぇ…、凄く頑張ってるんだね」

雨宮さんの、その言葉がごっつ嬉しくて、思わず頬を緩めた。


「雨宮さん、こないな時間まで何してたん?」

「あ…図書室に行って、本読んでたらいつの間にか寝てて…」

苦笑しよる雨宮さんに、俺は思わず笑ってしもうた。


「あ、これから片付けるの?」

「せやなぁ」

「私も手伝うよ」

俺が口を開く前に雨宮さんはローファーを脱ぎよった…、ん?何でローファー脱いでんねん!


「何でローファー脱いでるん!?」

「え、ローファーやヒールのままでコートに入っちゃいけないかなって思ったから…」

「確かに、コートを傷つけてまう場合もあるけど…」

「さ、早く片付けよう?」

「お、おん…」

汚れてまうのも気にせずに雨宮さんはコートに落ちてるボールを拾っていく。
俺はそんな雨宮さんを呆然と見ていたが、ボールを拾い始めた。



▽▽▽



「…これで最後!」

雨宮さんが最後のボールを籠に入れ、そう言った。


「雨宮さん、ほんまにありがとう」

「ううん、白石君の頑張ってる姿が見れて良かった」

「え…」

頑張ってる、姿?
雨宮さんと会ったのは自主練が終わってからや。
俺が練習しとる姿なんて見とらんはずやけど。


「こんなにボールが汚れるまで練習してるんだもん…、白石君、頑張り屋さんだね」

「っ…」

「…あ、白石君、手見せて貰ってもいい?」

「え、おん」

雨宮さんの言葉が嬉しすぎて、直ぐに反応出来へんかったが、ゆっくりと手を見せた。
すると雨宮さんは俺の手を見て、優しく微笑んだ。


「…綺麗な手だね」

「何、言っとるん?綺麗なんてもんやないで…?」

俺の手は、血豆があったり皮が剥けておったり、とてもやないけど綺麗なんて言えたもんやない。


「だって、頑張ってる証というか…そう!努力の証だよ!白石君の努力が目に見える、綺麗な手だよ」

「っ!」

「あ、私、今日早く帰らないといけないんだった!じゃあ白石君、また明日ね!」

「あ、お…おん」

雨宮さんは慌ただしくローファーを履き、走り去ってしもうた。
俺は暫く、動けんかった。
自分の手を見つめる。


「…わかって、くれたんや」

途端に胸に溢れる想い。
分かってくれたんや。
雨宮さんは俺を分かってくれたんや。
雨宮さんだけが。


「…雨宮さん」

俺を分かってくれる、ただ1人の理解者や。


*2012/11/04
(修正)2015/12/27

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