第一印象


「…はぁ」

朝練を終え、教室に行く最中、俺は何度目かも分からなくになったため息をついた。
隣に居る謙也も、何時もの明るい雰囲気は無く、眉を寄せて険しい表情でで歩きよる。
真樹が可笑しなった。
真樹は全校生徒(勿論、テニス部以外や)に虐めを受けとる。
俺らは真樹がちゃんとマネージャーの仕事をしてくれとるさかい、普通に接しておる。
まぁ、ミーハーなのは頂けへんが。
色んな要素が重なってしまい、虐めに発展してしまったんや。
俺らが止められる規模のもんや無かった。
だが虐めを受けても真樹は変わらんかった。
俺たちに媚びを売り続けた。

それなのに。
今朝の練習、真樹は一度も俺たちに媚びを売らんかった。
あれだけの虐めを受けても尚、媚びを売り続けた真樹が。


「蔵先輩!どうぞぉ」

と化粧で作った笑顔で言うんやなく。


「先輩、どうぞ」

と淡々に、ドリンクを手渡して来たのだ。
真樹がそんなに変わってしまう程、酷い虐めなのやろうか。
止められへんかった罪悪感が胸を焦がしよる。


「…何があったんやろな?」

謙也は俺の質問には答えず、口を閉ざしとった。



▽▽▽



ざわざわと騒がしい教室。
そんな教室の中に、担任が入って来よる。


「SHR始める前に、お前ら喜べ!転校生や!」

わぁっと教室内が湧き上がった。
俺の隣の空席、転校生の席なんやろうな、とぼんやりと頭の片隅で思った。


「入りぃや」

担任の声で、教室のドアがガラリと開いた。
入って来たのは女の子やった。
綺麗な顔をした女の子は、少し俯きながら、教卓の隣に立った。


「雨宮さんや、自己紹介宜しゅう!」

「雨宮瀬奈です、宜しくお願いします…」

照れとんのか、顔を赤くする雨宮さん。
…ミーハーでは無さそうやな。
ミーハーと言う単語を思い浮かべた瞬間、頭に真樹が浮かんできよって、またため息が出た。


「席は白石の隣や!白石、手上げや」

俺は担任の言葉に、右手を力無く上げた。
雨宮さんは、そないな俺を見てから、隣の空席へと視線を移し、席に座った。


「えっと、宜しくね」

「おん、よろしゅう」

にこりと貼り付けた笑顔で言えば、雨宮さんは笑顔で返してくれた、と言いたいところやけど、俺の予想は外れた。
雨宮さんはそないな俺を見て、苦笑を零したんや。
なしてそないな笑い方をしたんや?
俺の笑顔が貼り付けたもんやと分かったんやろか。
そないなわけ、まさか、な。
雨宮さんはそれから、俺に一度も話掛けへんかった。
いつの間にか、俺の頭の中は、雨宮さんで一杯になっていた。
他とはちゃう転校生。
それが第一印象やった。


*2012/10/14
(修正)2015/12/23


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