舞い降りた天使


中1の前期に、私はこの四天宝寺中学校に転校してきた。
そして直ぐに、男子テニス部のマネージャーになった。
男子テニス部しか、マネージャー枠が空いている部活がなかったから。
私が部活にマネージャーとして入った理由、それは愛されたかったから。
とある漫画でマネージャーが皆に好かれ、尊敬され、愛されると言う物語があった。
両親が早くに死んだ私は、愛に飢えていた。
だから頭のどこかで、このマネージャーのように愛されたい、私は愛されるべきだと思い込んでいた。
なんて、今思えば馬鹿な話だが。
心のどこかでは、私も愛されるはずだと、思い込んでいた。
男子テニス部は漫画みたいに格好いい人ばかりで、絶対に誰かが私を愛してくれると思った。
そう、思ってた。



▽▽▽



パシンッと音を立て、叩かれた頬が熱を持ったようにヒリヒリと痛みだした。
目の前には4、5人の男女の姿。
まるでゴミでも見ているかのような目で、私を見ている。
私は全校生徒から虐めを受けていた。
無視され、陰口を言われ、暴力を振るわれた。
それは中2の夏、今現在も継続されている。


「キモいんや!」

「ブスのくせに、白石君に色目使うなや!」

毎日のように言われる陰口や罵声。
もう慣れてしまった。


「早く学校やめれや」

「寧ろ消えてくれてもええやで?」

ギャハハ!と言う笑い声と共に顔を殴られ、地面に倒され、鳩尾を蹴られ、足を踏まれる。
私は暴行されても、可愛い子振るのを止めなかった。
その行為が更に敵を増やし、今や全校生徒だ。
でも私は止めない。
だって可愛ければ愛してくれるんでしょう?
薄れゆく思考の中、最後に見たのは真っ黒な雲に覆われた空だった。



▽▽▽



「…っ」

頬に触れた何か冷たい物が私の思考を呼び覚ました。
うっすらと目を開けると、そこには女子生徒が1人。
また罵倒されるのかと、目を強く瞑った。


「あの…、大丈夫ですか?」

私はこの言葉に、目を見開いた。
その言葉には嫌みや嘘なんかは無く、本当に心配していると言わんばかりの声色で。
黒い雲に覆われていた空に、一筋の光が地上に降り注いだ。
それをきっかけに、段々と明るい青に戻って行く空。
光が女子生徒の長い髪を照らし、キラキラと輝く。

天使。
そう、私の前に現れたのは天使だ。
今の私には、天使にしか見えなかった。


「気を失っていたみたいです、痛くないですか?」

「…大、丈夫、です」

上半身を起きあがらせると、私は先程呼び出された校舎裏にいることが分かった。
ふと怪我を見れば、綺麗に手当てされていた。


「…これは」

「勝手にごめんなさい、失礼だとは思ったんですが…、あまりにも」

そう言って腕に綺麗に貼られたガーゼにそっと触れ、目を伏せる天使。
嗚呼、私はなんて愚かなのだろうか。
私を愛してくれるのはテニス部の人じゃない、この方だ。
私はこの方を崇拝するために生まれてきたんだ。
きっとそうに違いない。
だって誰一人として愛してくれなかった私に、こんなに優しくしてくれるんだもの。
この方さえ居れば、私は無償の愛を貰える。


「あの、貴女は…」

「私、明日からここに通うことになった雨宮瀬奈です」

そう言って天使はにっこりと笑い、ふと携帯を取り出して時刻を確認した。


「あ、もうこんな時間…、ちゃんと家に帰ってから消毒してくださいね、それでは」

私は呆然と、天使が立ち去りのを見ていた。
雨宮、瀬奈さん…、か。
私を愛してくれる、優しい人。
やっと見つけた。


*2012/10/11
(修正)2015/12/23



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