異変


最近、白石君だけでなく、忍足君の様子も可笑しくなった。
私が他のクラスメイトのお友達と話していると、わざと私たちの間に入り込んで私に話し掛けるようになった、気がする。
否、自意識過剰なのかも知れない、うん、こんなの自意識過剰だ。
そう思ってて、良いんだよね?



▽▽▽



「雨宮さん、お早う!」

「お早う」

「忍足君、白石君…お早う」

朝練を終えた忍足君と白石君が教室に入ってきて、真っ先に私に挨拶をしてくれた。
私が挨拶を返すと、2人は嬉しそうに笑ってくれた。
うん、やっぱり2人とも変わってないかも知れない、私の思い過ごしか。


「あ、雨宮さん」

「どうかしたの?」

クラスメイトの女の子が私に声をかけ、こちらに歩み寄ってきた。
手に何かプリントのような物を持っているので、そのプリント関係の話題かな。
女の子が口を開こうとした瞬間、忍足君が私と女の子の間に立憚った。
どうかしたんだろうか、そう思い口を開こうとした瞬間、それは忍足君の声に憚られた。


「雨宮さんに何の用や?」

「っ…プ、リントを」

私から忍足君の表情は伺えない。
だけど何時もより声が低いような気がする。
クラスメイトの女の子は細やかに体を震わせ、怖ず怖ずとプリントを忍足君に差し出した。


「…今度から雨宮さんに用ある時は俺に言ってや」

「え、なして忍足君に…」

「俺でもええで」

「…俺か白石に言ってくれへんか?」

「!、わかっ、た」

忍足君は笑顔で女の子にそう、告げた。
けれどもその目が笑っていなかったように見えたのは、気のせいなんだろうか。
女の子は体を震わせて、忍足君にプリントを渡して小走りで仲の良い子の所へ行った。


「雨宮さん、これからは極力俺ら以外と話したらアカンで?」

「え、どうして?」

「やって雨宮さんともっと話したいねん」

忍足君はにっこりと笑った。
そっか、これは私ともっと仲良くなりたいからって、ことでいいんだよね?
そこまで思ってくれてたんだ…、変に疑っちゃって、悪いことしちゃったな。


「謙也、何抜け駆けしとんねん、俺かて話したいわ」

「ぬ、抜け駆けなんてしてへんやろ!?」

先ほどまでのピリピリとした空気は消え去り、何時もの穏やかな空気が戻ってきた。
2人のいつものやり取りが何処か心地よくて、思わず口元を緩めた。


「…ふふっ、ありがとう」

こんなにも仲良くなりたいって思ってくれてるんだから、私も応えなきゃ。
私も、もっと2人と仲良くなりたいな。


「…雨宮さん、名前で呼んでもええ?」

「うん、良いよ」

「白石ばっか狡いわ!俺も呼んでええ?」

「勿論だよ!…じゃあ私も名前で呼ぶね」

「おん!」

「…く、蔵ノ介君と、謙也、君?」

「…何や瀬奈」

「よ、呼んでみただけ…です」

何だか気恥ずかしくなり、顔を逸らした。
蔵ノ介君はそんな私を見て微笑み、謙也君は私と同じように頬に朱を指した。
なんだか、名前で呼ぶことによって、距離が縮まった気がする。


「…謙也」

蔵ノ介君が謙也君と少し離れた所へ移動し、何かを話している。
きっと、部活関係かな?
そう思い、私は気にするのをやめて次の授業の準備に取り掛かった。


*2012/12/22
(修正)2016/01/11

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