▼ 見学
「雨宮さん」
「白石くん、どうしたの?」
授業道具を鞄につめ、帰り支度をしている最中に白石君がにこにこと笑いながら私を呼んだ。
何だろう、何かあるのかな。
「マネージャーの件、どうや?」
「う〜ん…、まだ考え中」
「…せや、今日見学来ぇへん?」
「テニス部に?」
「おん!」
見学か。
…確かに、真樹ちゃんの事も気になるし、良いかな。
「…じゃあ、お邪魔させて頂きます」
「決まりやな」
笑みを深めた白石君に、私は笑顔で頷いた。
▽▽▽
「ほ、本当にお邪魔して大丈夫?」
「大丈夫やって」
白石君と共にテニスコートまで来た。
ちなみに忍足君は掃除当番らしく、まだ来ていない。
コートには緑と黄色の目立つジャージの人がちらついていた。
その目立つ色のジャージを着ている人はレギュラーだと白石君が言っていた。
「俺着替えて来るさかい、#name1☆さんは此処に座っといてや」
「あ、うん」
白石君に言われ、私はコートの近くにあったベンチに腰掛ける。
すると、いくつかの視線を感じたので辺りを見渡す。
「瀬奈先輩!?」
「あ、真樹ちゃん」
いくつかの視線の中にいた真樹ちゃんは目を大きく見開いてから、私に走り寄って来た。
「どうして此処に!?」
「白石君に誘われたの」
「白石先輩に…」
私の口から白石君の名前が出ると、真樹ちゃんは何か納得したように白石君の名前を呟いた。
「先輩」
「あ、…財前君?」
「どうも」
私の前に歩いて来たのは、あの時、生徒手帳を届けた財前君だった。
テニス部だったんだ、あれ、財前君の着てるジャージって…。
「財前君、もしかしてレギュラーなの?」
「そうっすわ」
「へぇ!すごいね!」
2年生でレギュラーになれるなんて…、財前君、テニス上手なんだ!
「ん?姉ちゃん誰や?」
財前君と真樹ちゃんの間から入ってきた赤っぽい髪の少年。
私を見て、沢山の疑問符を頭の上に浮かべている。
その様子が可愛らしく、思わず笑みがこぼれた。
「こんにちは、私は雨宮瀬奈、テニス部を見学しに来たの」
「ワイ、遠山金太郎や!姉ちゃんよろしゅう!」
「宜しくね」
遠山君、元気な子だなぁ。
しかしレギュラージャージを身につけていることから、遠山君もレギュラーだと伺える。
「こら、金ちゃん」
「し、白石!」
遠山君の登場で騒がしくなった私の周りに、レギュラージャージに着替えた白石君が加わった。
「金ちゃん、雨宮さんに迷惑かけたらあかんやろ?」
「め、迷惑なんて掛けてへん!せやから毒手は無しや!」
「毒手…?」
「気にせんといて下さい、いつもの事っすわ」
「そ、そうなんだ…」
財前君の話に寄ると、遠山君は1年生で矢張りレギュラーだと言うことだ。
1年生だったんだ、1年生でレギュラーなんて、凄いなぁ。
「すまん!遅くな…ってぇ!?雨宮さん!?」
「あ、忍足君」
「謙也、遅かったなぁ」
「白石!なんで雨宮さんが…」
「テニス部の見学に来たんだ」
私がそう言うと忍足君は目を大きく見開き、驚きをあらわにしてから、にかっと笑った。
「雨宮さんが居るなら、ええとこ見せなアカンっちゅー話や!」
「え、?」
「ふふ、頑張ってね!」
私は忍足君の言葉を冗談だと思い、軽く返した。
だから忍足君の言葉に驚きを見せた白石君、真樹ちゃん、財前君の心情が分からなかった。
▽▽▽
レギュラーである小石川君、石田君や千歳君の事も紹介してもらい、私は練習試合を見学させて貰った。
ちなみに、あと2人レギュラーが居るらしいけど、今はネタ?の打ち合わせで居ないらしい。
練習試合は凄いと言う言葉しか出て来なかった。
真剣にラケットを振る姿に、マネージャーの件を受けようかな、と心の片隅で思った。
*2012/12/17
(修正)2016/01/02