湧き上がる


白石が可笑しい。
いや、可笑しいっちゅーか、最近転校して来た雨宮さんにめっちゃ優しいんや。
今まで、白石が女子を特別扱いなんてしたこと無い。
…いや、あれは特別扱いっちゅーより、溺愛に近いかも知れへん。
上手く立ち回り、誰も雨宮さんに話しかけれないようにしとる。
…雨宮さんに恋でもしたんやろか。



▽▽▽



「…俺、昼休みに保健委員の集まりあんねん」

「あ、そうなんだ…」

昼休み。
俺はいつも白石と雨宮さんと食べとる。
せやけど今日は白石は委員会の集まりがあるらしい。


「…謙也、雨宮さんに迷惑かけたらアカンで?」

「わ、分かっとるわ!」

白石の目、あれは本気やった。
思わず白石が教室から出ていくんをじっと見つめてしもうた。


「じゃあ忍足君、食べよっか」

「あ、あぁ…せやな」

俺と雨宮さんは机をくっつけ、他愛も無い話をしながら食べ始めた。



▽▽▽



「せや、雨宮さん」

「何?」

「確か白石にマネージャーに誘われとったな」

そう、今朝の事や。
白石がにっこりと雨宮さんに「マネージャーやらへん?」って聞きよったんや。
あの真樹が居るのに、俺は驚いてしもうて白石を凝視してしもた。
雨宮さんは「もう少しだけ考えさせて」と返答してこの話は終わったんやけど。


「あ、うん」

「白石に誘われたんは今日が初めてなんか?」

「そうだけど…、どうして?」

「今朝、もう少し考えさせてって言っとったやろ?“もう少し”っちゅー事は前に一度頼まれて考えてたって事やろ?」

俺がそう言うと、雨宮さんは目を少し見開いてから、ふんわりと笑った。


「実は白石君より先に真樹ちゃんに誘われてたんだ」

「な、何やて、真樹に?!」

…嘘や。
真樹が誰か、しかも女子をマネージャーに誘うなんてあり得へん。
前に、マネージャー志望の女子が居った時、真樹はごっつい顔でその子を睨んどった。
しかもその子がミーハーやと分かった瞬間、精神的にきっつい暴言を吐き、あの手この手で苦しませて退部に追い込んだんや。
あれは忘れられへん。
あの時の真樹の顔だけは。


「…真樹ちゃん、虐めを受けてるんだよね?」

「…っ」

「あ、責めてるとかそう言うのじゃないから!」

「…おん」

責められた方が良かったのかも知れへん。
虐めは最悪な行為や。
大切なマネージャーが虐めをされとる言うのに、止めれんかった俺らにも責任はある筈や。


「…忍足君、自分を責めちゃ駄目だよ?」

「!…べ、つに責めてなんか……」

「忍足君は優し過ぎるんだよ」

「っ!」

いきなり何を言うかと思えば、雨宮さんは俺の事を優しいと言った。
俺のどこが優しいっちゅーねん。
虐めを止めれんかったのに、真樹を助けてあげられんかったのに。


「虐め、止めようとしたんでしょ?」

「…せやけど、止めれんかった」

「でも、真樹ちゃんの味方になってくれた、だから真樹ちゃんの心は死ななかったんだよ」

「…お、れ」

「ありがとう」

「っ、!」

なんて、私が偉そうに言うことじゃないけど、と言うて苦笑する雨宮さんを、見て、涙が出そうになった。
俺はずっと自分を責め続けてたんや。
真樹が虐められとんのに、俺は優しい言葉なんか掛けれんかったんや。
止めれんかったんや。
俺に出来んのは、部活の時に話しかける程度やった。
せやのに天宮さんはそんな俺に“ありがとう”って言ってくれたんや。
心の奥底におった冷たくて重い塊が、じんわりと溶けていった。
それと共に、雨宮さんに対する暖かい想いが泉のように湧き上がってきよった。


「雨宮さん、おおきに」

「私は何もしてないよ?」

そう言ってふんわりと笑う雨宮さんはとても綺麗やった。
…白石、堪忍な。
俺、雨宮さんを取られたくないって思ってしもうたわ。


*2012/12/15
(修正)2016/01/02

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