▼ 崇拝≠純愛
ギリっと唇を痛い程噛み締め、私はその光景を黙って見ていた。
ずるい、ズルい、狡い、ズルイ。
私の視線の先には、私がお慕いする#nameh先輩と白石先輩が居た。
2人は仲良さそうに話をしている、ズルイ。
▽▽▽
「お疲れ様でした」
「お、おん…」
「真樹ちゃんも、気ぃつけて帰りや?」
「まだ帰りません、私、白石先輩にお話があるんで」
「え、蔵りんに…?」
「はい、じゃあ失礼します」
部活が終わり、私は部室へと足を向けた。
すると丁度一氏先輩と金色先輩が部室から出てきたので、私は挨拶をした。
今は愛想笑いも出来ない。
どす黒い嫉妬の感情が胸に溢れている。
それを感じとったからなのか、私が媚びを売らなかったからか、どちらかは分からないが、一氏先輩と金色先輩は困惑した表情だった。
「失礼します」
ノックをしてから、部室の扉を開ける。
小石川先輩と石田先輩、千歳先輩、金ちゃんはもう居なかった。
中に居たのは白石先輩と忍足先輩、そして財前だった。
「ま、真樹やないか、どないしたん?」
「白石先輩にお話しがあって」
「俺に…?」
忍足先輩と財前が不思議そうに白石先輩を見る。
いや、そんな事はどうでも良い。
私の勘が正しければ、白石先輩は瀬奈先輩に私と似たような感情を抱いてる。
そんなの許さない。
「すみませんが、忍足先輩と財前は外に出てくれませんか?」
「…お前、何を言うつもりや」
財前は私の表情を見て、瀬奈先輩関係だと察したらしい。
だけど財前には関係ない。
「…謙也、財前、ちょっと外に出てくれへんか?」
「…わかったわ」
「ありがとうございます」
忍足先輩と財前が眉を寄せながら、部室から出て行った。
「…話って何や?」
部誌を見ていた白石先輩は私を見て不思議そうに言った。
「…雨宮瀬奈」
「!…なんや、雨宮さんに何かする気か?」
白石先輩の目が鋭く細められ、殺気によく似た威圧感が私に向けられる。
やっぱり、白石先輩も私と同じだ。
そんなのダメ。
「なんでですか?」
「何がや」
「瀬奈先輩は私の、私だけの天使なのに!」
声を荒げた私に、白石先輩は少し目を見開いたが、また先程より目を細めた。
「雨宮さんが自分だけの天使やて?そら勘違いや、雨宮さんは俺を理解してくれはる唯一の存在や」
「それこそ勘違い何じゃないんですか?私、今日見たんです、白石先輩、瀬奈先輩と話しましたね?」
「それが何や」
「瀬奈先輩と話すなんてズルイ、同じクラスなんてズルイ、隣の席なんてズルイ!」
「はっ…何や、嫉妬かいな、俺のことを理解してくれとる雨宮さんと隣の席になったんは運命やったんや、きっとそうや!」
「違う!運命なんかじゃない!」
「雨宮さんの隣に居ってええのは俺だけや、雨宮さんは俺を理解してくれてはる!せやから俺もいっちゃん近くで雨宮さんを理解したるんや」
「違う!瀬奈先輩に愛して貰うのは私なの!だから私が瀬奈先輩の隣で瀬奈先輩を幸せにするの!」
「雨宮さんを幸せに出きるんは雨宮さんの全部を分かっとる俺だけや」
「私だって、瀬奈先輩のこと、理解出来る!」
白石先輩も私も、話が噛み合っているようで噛み合ってないのは分かっている。
けれども、自分の主張をどうしても通したいのだから仕方がない。
怒鳴りすぎて喉が辛い。
だけど、瀬奈先輩を取られる方がもっと辛い。
なんで白石先輩は邪魔するの?
嗚呼!
邪魔邪魔邪魔!
「真樹…自分、狂っとるな」
「白石先輩こそ」
私が狂ってるのは知ってる。
でも白石先輩だって同じくらい狂ってる。
瀬奈先輩を独り占めしたい、周りの人から遠ざけたいと、そう願っている。
…待てよ?
周りの人から、遠ざける、か。
そうか、いい事を考えた。
「白石先輩、一時休戦しませんか?」
「いきなり何や」
「瀬奈先輩を、テニス部に入れるんです」
「!…そらええ案やな、俺ら以外に雨宮さんを取られたくないしなぁ」
「はい、テニス部だけの瀬奈先輩にしたいんです」
私はにっこりと笑った。
すると白石先輩もにこりと笑った。
そう、まずは邪魔な周りの人から、同じ目的を持った白石先輩と私がいるテニス部に引き込むのだ。
そうすれば部活内でも一緒に居れると言うメリットがあるし、同じ部活に入ることで信頼や絆も深まる。
まずは内の敵より、外の敵を寄せ付けないことから始めなくっちゃ。
「私たち、仲間ですね」
「そやなぁ、早速明日から誰も雨宮さんに近づかんように、俺が側におるわ」
「お願いします」
まずは瀬奈先輩をテニス部に引き入れて、そのまま“テニス部”と言う鳥籠に閉じ込めてしまおう。
そうしたら邪魔な周りの人から瀬奈先輩を守れる。
それから、テニス部内で争えばいい、そうしたらライバルは格段に減る。
私と白石先輩は瀬奈先輩を愛し合う仲間だ。
やった、もう少しで、瀬奈先輩を…。
*2012/12/10
(修正)2016/01/02