笑顔の裏


今は昼休み。
教室がざわざわと喧しい。


「はぁ…」

俺の隣でため息をついとる南を購買で買ったパックのお茶を飲みながら見る。


「なんや、ため息つくな」

「財前煩い」

イラッと来たわ。
君付けせんでええ、と南に言うてから、南は俺の事を財前と呼ぶようになった。
いや、そんなんどうでもええねん。
人の横でため息ついといて煩いって何やねん。
はぁ…とため息を零した時、聞き慣れない透き通った声が教室に響いたんや。


「真樹ちゃん」

「っ、瀬奈先輩!」

その声を聞いた瞬間、南が勢い良くイスから立ち上がり、その声の持ち主ん所に駆け寄って行きよった。
さっきまで煩かった教室がしん…と静まり返った。
そらそうや、南を呼び出すんはいつも柄の悪そうな奴らやったり、南に対して嫌悪を抱いてる奴らやった。
あんな優しく南を呼ぶ奴、初めてやわ。
南があんなに笑顔で女に対して喋るなんてのも初めて見たわ。
その女と喋っとった南が笑顔を消して俺んとこに歩いてきよった。


「瀬奈先輩が呼んでるから、行って」

「は?」

「早く行ってよ、瀬奈先輩を待たせないで」

アカン。
南の目には俺に対する憎しみと嫉妬が写っとる。
こら逆らったらアカンわ。
俺は南の顔を見ずに、その瀬奈先輩とやらの所に行った。


「…何すか」

南にあないな顔をさせる奴に心当たりがあった。
“天使”。
この女が“天使”なんやろか?
瀬奈先輩、南にそう呼ばれとった女はガラス玉のような澄み切った瞳で俺のピアスをじっと見とる。


「貴方が財前君?これ、廊下に落ちてたから…」

先輩は両手で俺の物らしき生徒手帳を差し出してきよる。
…生徒手帳?
俺は生徒手帳が入っとった筈のスボンの後ろポケットを確認するけど、そこには生徒手帳は入っとらんかった。
さっき購買に行った時にでも落としたんやろか。


「…どうも、おおきに」

「いえいえ」

「…もしかして、アンタ転校生っすか?」

「え、うん、そうだけど」

「…ふぅん」

やっぱ、転校生やったか。
ちゅーことは、この人が天使なんやな。
そう思うとなんや嬉しなって、思わず口の端を上げる。
もう一度お礼を言うてから、俺のことをごっつ睨んどる南の元へと向かう。


「あの人、名前なんて言うん?」

「財前には関係ないでしょ」

「ほんなら、天使さんって呼ばなアカンな」

「っ!…瀬奈、雨宮瀬奈先輩」

「ふーん、そか」

俺は未だに嫉妬の篭っとる視線を送ってくる南を無視し、席についた。
あれが“天使”か。
何や、楽しくなりそうや。


*2012/11/17
(修正)2015/12/29

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