緩む頬


何時ものように音楽を聞きながら今日出た宿題を解いていく。
この数式、さっきも出とったな、とノートを数ページ捲り、同じ問題を見つけてそれを写しとった。


「…ん?」

携帯が規則的に光っとることに気付き、俺は黒いフレームのイヤフォンを片耳だけ外した。
すると外部の音が片耳だけに入ってくる。
携帯からは軽快なメール受信音が流れとる。
個別設定音やないっちゅーことは、迷惑メールかいな。
携帯を開き、メールを確認する。


「…誰やねん、これ」

知らんアドレスに、眉を寄せる。
こないなアドレス、知らんわ。
誰かがメールアドレス変えたんか?
そう思いながらメールを開くが、その内容を見た途端、俺は思わず笑ってしもた。


(社会科教室の机の角に白玉描いた者です)

ほんまにメールして来たんやな。
律儀に白玉描いたって書いとるし。
俺は片手に持っとったシャープペンシルを机に置き、メールを作成した。


(あれ、ほんまに白玉やったんやな)

「送信、と」

送信しました、と画面に表示されとる文字を確認してから携帯を閉じた。
先程のメールの内容を思い出して、やっぱり関西人やないな、と顔も名前も知らぬメール相手を想像した。
関西人やないっちゅーことは、転校生か?
転校生言うても、結構居るから分からんな。
なんて考えとると、また軽快なメール受信音が鼓膜を揺さぶった。
俺は音楽を止め、片耳だけしとったイヤフォンを外して携帯を開いた。


(白玉に見えませんでしたか?)

(俺には白玉に見えたんやけど、他の奴がテニスボールやないかって言うとったから)

(私の友達にも、それテニスボール?って言われました)

「…やっぱ女なんか」

机の角に書かれた丸っこい綺麗な文字を思い出して、納得した。
私って言うとるし、女なんは確定したわ。


(テニスボールに見えなくはない)

(そうですか?ショックです)

(なしてショック受けとんねん)

(結構本気で白玉書いてたんで、でもその白玉書いてた時、丁度テニス部の人の話をしてたので、友人にはテニスボールに見えたのかも知れません)

携帯の画面を見る目が細くなる。
テニス部、なぁ。
なんや、こいつも結局顔が良ければええ奴なんか?
そう思うと、体の芯から先程まであった何かが冷めていった。


(テニス部の誰が好きなん?)

その一言を打ち、携帯を投げやりにベッドに投げた。
なんや、宿題やる気も失せてしもたんやけど。
溜息をこぼしながら再びイヤフォンを耳につけ、シャープペンシルをノートに走らせた。



▽▽▽



「ふぅ…」

やっと宿題を終わらせ、シャープペンシルを机に置く。
ノートと教科書をしまい、ふとメールの存在を思い出した。
…返信、来とるんやろか?
ベッドの上の携帯を取り、開く。


(友達は白井先輩?のことが好きみたいですよ)

「…は、」

なんや、こいつ。
ちゅーか、白井先輩って誰やねん。
まさかこいつ、テニス部のこと、あんまよう知らんのやないんか?


(白井やなくて白石やろ?)

(あ、そうでしたっけ?)

(テニス部のこと知らんのか?)

(あんまり、いや、カッコイイとは思いますよ、けど人間はやっぱり中身ですよね)

「…ふ、なんやこいつ」

先程まで心の奥底に眠っとった冷たい何かが、優しく溶かさとる感覚になった。
俺はアドレス帳に“白玉”という名前で登録し、個別設定音をオルゴールの音に設定した。


(自分、阿呆やろ)

何時ものように毒舌を吐く。
せやけど、頬は緩んだままやった。



*2015/11/19
(修正)2015/12/29


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