困惑 「…どうしよう」 私の呟きは騒がしい教室の喧騒にかき消された。 まぁ、誰かに聞いて欲しかった訳ではないから、別にいいんだけどさ。 「由梨ちゃん、お昼食べよー」 「あ、うん」 「ん?その紙なんや?」 「ああ、えっと…、友達の、メールアドレス…」 「へぇ、そうなんか…、あ、今日なぁ!」 楽しそうに今日の予定を話す佐藤ちゃんに相槌を打ちながら、私は咄嗟に机の中に入れた小さく四角に折られたルーズリーフに書いているメールアドレスを見て、内心ため息をついた。 本当、どうしよ。 事の始まりはお昼休みの前の時間、つまり選択授業まで遡る。 ▽▽▽ 「せやけどな!ここでコイツが裏切りおるんや!」 バンッと黒板を叩きながら大好きな武将について語る先生。 その声をBGMに、私は着々と午後にある数学の宿題を移していた。 すっかり忘れてたんだよね…。 「どや、由梨ちゃん、終わりそう?」 「うん、後1問写せば終わり」 「おお、そら良かったわ」 にこっと笑う佐藤ちゃんに、お礼を言う。 この宿題、貸してくれたの佐藤ちゃんだからさ。 「それにしても…、お腹減ったなぁ」 「これ終わればお昼休みだよ、後もうちょっとの辛抱だ」 「うぅ、せやけど…」 「宿題のお礼に、何か奢ってあげるからさ」 「よっしゃ、頑張ろ」 そう言って真顔で前を向き、真剣に授業を聞く佐藤ちゃん。 現金な子だ、と苦笑し、最後の問題を写しにかかる。 「…ん?」 佐藤ちゃんに借りたノートを見ていると、視界に黒い何かが見えた。 そちらに視線を移すと、そこには私が描いた白玉が…って、まだあったんだ。 あ、まだ私の文字残って…。 …あれ? 「“机の中”…?」 私が書いた“白玉です”の下に、新しく書き加えられていた文字。 え、机の中って…? 私は恐る恐る机の中に手を入れてみた。 冷たい金属の感触が…ん? なんだろ、これ…。 カサリと音を立てたそれを机の中から取り出す。 なんだ、ルーズリーフか…。 二つにおられているルーズリーフを開くと、そこには…。 「…え、これって、メールアドレス?」 と、言うことなのだ。 ▽▽▽ 「…はぁ」 これってきっと“これ何や”って書いた人のメールアドレス…なのかな? いやいや、でもなぜメールアドレスをいれたの? え、これってメールするべき? 相手の性別すら知らないのに? 「…まぁ、なんとかなる、かな?」 「由梨ちゃん、どないしたん?」 「ううん、何でもない」 まぁ、何とかなるよね。 だって同じ学校の人で、同じ学年(多分)でしょ? 新しい友だちが増えるってことで…。 …あ、メール、なんて送ったらいいんだろ。 *2013/10/06 (修正)2015/12/23 |