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さようなら


つまらない、なんてつまらない世界だ。
そう呟いても、世界が変わることは無い、なんてことは当の昔に分かっている。
分かっていたからこそ、早くこんな醜い世界から居なくなってしまいたかった、消え去ってしまいたかった。
けれどもやはり、死の恐怖と言うのは恐ろしくて、故意に自分を傷つけることさえ、躊躇われた。
だからこれはチャンスだと、そう思ったのだ。
蛇行しているトラックが、何かに操られているかのように私に向かって来ていた。
嗚呼、やっと終わるんだと、静かに息を吐いた。
凄まじい衝撃が体を襲った瞬間、ふと幼い私がこちらを見ていたような気がした。



▽▽▽



「アンタなんか、産まなきゃよかった!」

これが走馬灯と言う物なのだろうか。
私の目の前には若い母親と、幼い頃の私がいた。
そう、ヒステリックに叫んでいるのは認めたくも無いが、事実上血の繋がった母親。
幼い私は泣くことはせず、ただただ無機質な目で母親を見つめていた。
そんな私に母親は腹を立て、思い切り幼い私を殴った。
きっと、母親は異形な姿の私を醜く思い、愛情を注げなかったのだと思う。
この君の悪いオッドアイの目、ただのオッドアイならば、まだましだったのだろう。
幼い頃は、本当にただのオッドアイだった。
しかし、この赤い目が次第に“違う世界”を私に見せるようになったのだ。
幼い私は、その不思議な世界に魅せられた。
純粋に“違う世界”を楽しみ、話していたのだが、そんな私の行動を気味が悪いと大人達は忌み嫌った。
集団から阻害され、1人で惨めに生きていたそんな時ろ私の前にとある扉が現れた。
好奇心に胸を踊らせ、その扉を開けた、そこはいつも見ていた“違う世界”だったのだ。
“違う世界”で出会ったのは、怖くとも心の優しい人たちだった。
私の目を見ても怖がらず、綺麗だと、そう言ってくれたのをよく覚えている。
後は色褪せてしまい、殆どよくは覚えていないが、幸せだった。
“違う世界”に行っていた間、私は行方不明になっていたらしい。
こちらの世界に帰ってきた時、母親に監禁され、躾という名の暴力を浴びせられた。


「どこに行ってたの!?」

「やさしいひとたちのところ、ちがうせかい…」

「本当のことを言いなさい!」

「ほんとうだよ!」

「嘘つかないで!」

「ほんと、だもん…!」

「嘘つくな!」

「、うぅ…」

バシンと凄い音がし、頬がヒリヒリと熱を持つ。
叩かれたのだと理解するのに、数秒も掛からなかった。


「あんた疫病神よ、アンタ何か生まなきゃ良かった!」

その日から“違う世界”を見るのを止めた、否見て見ぬ振りをするようになった。
見てしまえば焦がれてしまうから、あの優しい世界に。
それからは人と距離を置き、まるで人形になったかのように感情を殺して生きてきた。
悲惨な日々を、これからも続けるのが嫌だと、心の何処かが叫んでいた。
そう、ずっと待っていたのだ、世界の終焉を。
この体が朽ち果てるのを。


「…さようなら、残酷な世界」

体も視界も、何もかもが真っ赤に染まっていく。
思考も赤く塗り潰され、そこで私の意識はぷつんと音を立てて切れた。



*2013/05/06
(修正)2015/12/20



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