見知らぬ部屋


「…ここ、どこ」

やっと出た一声はとても弱々しく、今の状況を理解出来ずにいることを明白にしていた。
どうやら何処かのマンションの、恐らくリビングに私は立っている。
全く見知らぬ部屋。
ここの部屋だけではなく、全ての部屋を見回ったが人の気配すら感じられなかった。
不法侵入、という言葉が頭を過ぎったが、リビングの机の上に、あからさまに見てくれとでも言っているかのように置かれていた書類を見てその言葉は消えた。
確かに、不法侵入という言葉は消えたが、不法侵入などよりももっと質の悪い言葉が頭を埋め尽くす。


「なみ、もり…?」

“並盛”
書類にはご丁寧に、並盛中学校の資料と転入届が置かれていた。
そしてその書類には“杉本 悠那”と、書かれている。
これは、私のだろうか。
私は高校生のはず、いや間違いなく高校生だった。
そして、並盛。
先ほどまで、お母さんと話していた漫画の舞台も並盛。
“異世界”という言葉が、頭の中を過ぎった。



▽▽▽



ソファーに座り、考えを整理しようと大きく息を吐いた。
このマンションは私が借りているらしい。
別の部屋に契約書があり、そこに私の記名と印鑑が押されていた。
ガス、水道、家賃など、請求も私名義らしい。
金銭面も恐らくは問題ない。
1ヶ月ごとに余裕で生活をしていける程、誰かからは知らないがお金が振り込まれているのを通帳で確認した。
そして私は鏡を見て、“異世界”などという突拍子もない言葉があながち間違いではないのかも知れないと思ってしまった。


「…、幼く、なってる」

鏡を見た限りだと中学生くらいだろうか。
中学生だと仮定すると、あの並盛中学校への転入も頷ける。
見知らぬ土地だけど、空想上の産物としては知っている土地。
非現実的な若返り。
これらをなんといえ言葉に変えれば納得できるようになるのだろう。


「異世界、トリップ…?」

ここに来る前、お母さんは渡ってと言っていた。
考えられないが、私は世界を渡ったのではないだろうか。
空想上の産物だと思っていた世界に。
そう考えれば、なんとなく納得がいくようないかないような。
私はリビングに備え付けられていたソファーに身をあずけた。
そして、中指に付けられていた指輪を改めて見る。
全てが出来すぎている。
金銭面といい、中学校のことといい、まるで私がこの部屋に、この世界に来ることが分かっていたかのようだ。


「不思議な指輪…」

この指輪をしたから、この世界に飛ばされたと仮定する。
指輪をもう一度付け直してみても、先程のような現象は起こらなかった。
つまり、現状でこの世界から元の世界に帰れる方法は無いに等しい。
でも、この指輪が鍵になっていることは間違いない。
私は中指から指輪を外し、何故かテーブルの上にあったネックレスのチェーンに通し、首に掛けて見えないように服の中に隠した。
そして再び訪れる静寂。
ふと窓越しに景色を見れば、どこもかしこも知らない建物ばかりで視線をそらした。
言いようのない不安と怒りが体をじわじわと蝕んでいく。
それが嫌で私はソファから滑り落ち、思い切り床を殴った、何回も何回も。
夢、だったら良かったのに。
ヒリヒリと熱を持ち始める拳が現実から逃げることを許さない。
それが悔しくて、視界が歪んだ。
と、その時、インターフォンが静かに部屋に響いた。


「…はーい」

誰だろうかと思考を過ぎったが、関係はない。
この世界に私を知っている人はいないのだからと自暴自棄になりながら重いドアを開けた。


「ねぇ、出るの遅いんだけど…」

そこに立っていたのは青年だった。
黒真珠のような光沢を放つ髪は日の光に当たり更に艶やかで、綺麗に整った眉は眉間に寄せられている。
漆黒の目は真っ直ぐと私を射抜き、形の良い唇を機嫌悪そうにへの字にしていて、手には鈍色に光るトンファーが。
あれ、この人どこかで…。


「えっと、どなた、ですか…?」

既視感を覚えながら首を傾げる。
すると目の前に鈍色に光るトンファーが、私の鼻先を掠めた。
当たってはいない、ギリギリ。


「僕が誰だろうと君には関係はないよ…僕の眠りを邪魔したから消す、それだけだ」

「す、すみません…」

もしかしたら下の階に住んでる人なのかもしれない。
さっき床を殴ったから…か。
謝罪するために頭を下げた瞬間、既視感の意味がやっと分かった。
そうだ、この人、知ってる。
雲雀恭弥、REBORN!に出てくる人だ。



*2013/03/31




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