私は今、街に1人で繰り出していた。 本当は外に出るなと言われていたのだが、どうしても閉鎖的な館の中だとネガティブなことしか考えられず、何処か開放的な所に出たくなってしまったのだ。 勿論、皆が学校に行っている間だけ、ほんの少しだけ。 「…やっぱり、良いな」 館とは違い、人が慌ただしく行き交う街中はどこもかしこも賑やかで、暗い思考を喧騒で吹き飛ばしてくれる。 私はとあるカフェに入り、先程立ち寄った本屋で購入した小説を開いた。 「お待たせいたしました、こちらカフェオレになります」 「ありがとうございます」 ゆったりと流れるクラシック調のBGMと店内の落ち着いた雰囲気が相まり、居心地の良い空間を演出していた。 私はカフェオレに口をつけながら、小説の世界へと入り込んだ。 ▽▽▽ 「…もうこんな時間か」 小説を読み終わる頃には、最早高く登っていた日は落ちてきていて、自分がいかに小説を読み耽っていたのかが分かった。 急いで帰らないと、皆が帰ってきちゃう。 急いで鞄に小説を入れ、会計を済ませてから店の外へと出る。 「確か、こっちの方が近道になる、はず」 店から数歩歩いたところにあった細く暗い路地。 大通りをこのまま歩くより、この路地を通った方が近道になるはず、そう考えた私は路地へと足を踏み入れた。 街中のはずなのに、街中独特の喧騒は全く感じられず、とても静かだった。 それが何処か心地よく、目を伏せてその余韻に浸っていると、その雰囲気を壊すような下品な笑い声が響いた。 「こんなところで何してんの?」 「俺ら財布落としてさぁ、良かったらお金貸してくんない?」 思わず、ため息をつきたくなったが、ぐっと堪える。 どうしてこんな漫画でよく見るような有りきたりな展開になってしまったのだろうか。 私の前に立ちはばかる数人の下世話な笑みを浮かべる男たち。 相手にしてはいけない、そう思い視線を鋭くして口を開いた。 「お断りします」 「あ?人助けしてくんねぇのかよ」 声を無視し、踵を返して直ぐにこの場から出ようと思っていたのだが、私が今歩いてきた道にも下世話な笑みを浮かべる男たちの姿があった。 囲まれていたみたいだ、気づくのが遅かったか。 先ほど我慢した溜息をここで吐く。 「私、用事があるので」 こんな事で時間を喰ってられない。 私は男達を避けて横を通り過ぎようとしたその瞬間、腕を強く引かれ、コンクリートの壁に押し付けられる。 背中に鈍い痛みと共に、鋭い痛みが走った。 「待てよ、まだ話は終わってねぇんだけど」 痛みに耐えつつ、ちらりと背後を伺う。どうやら私が今寄り掛かる形で体重を預けてる壁は廃墟になったビルらしい。 その壁には有害線が何故かあちこちから飛び出ており、恐らくそれが背中に刺さったのだろうと推測できた。 「この人数から逃げられると思ってるの…?」 ぐっと強く二の腕を捕まれる。 あまりの痛さに、思わず顔が歪む。 「離して!」 手を振り払おうと抵抗するが、やはり男女の体格の差はがあり、振り解けない。 こうなったら、と蹴りを入れようと脚に力を入れた瞬間、腕をつかんでいた男の頭に鞄がばしっといい音をたてて当たった。 「いっ、!?」 男はあまりの痛さに私の腕から手を離し、鞄が当たった部分を抑える。 何が起こったのだろうか、と私は状況を理解出来ないまま、鞄が飛んできた方に視線を向ける。 そして、視線を向けたことを後悔した。 「み、皆…」 そこには見慣れた顔ぶれが揃っており、皆険しい表情をしてこちらを睨むように見ている。 学校帰りですね、分かります。 鞄を投げたのは十瑚らしく、鞄を投げた体制のまま男達を睨んでいた。 「てめぇら、何してんだよ」 「ひっ…」 焔椎真の般若心経のような表情に戦き、男達はすぐ様走り去っていった。 待って、この状況の中1人にしないで、と言いたかったが、目の前で九十九が鋭い目つきでこちらを見ていたのでその言葉を読み込んだ。 「ど、どうしてここに…?」 「大通りを歩いていたら、遼さんの声が聞こえると九十九君が…」 「そうだったんだ…」 「怪我はありませんか?」 「うん、大丈夫」 夕月が優しい笑みを浮かべながらそう問いかける。 私は負傷した背中を壁に押し付けたまま、平然と嘘を言ってのけた。 背中に生暖かい液体が流れるのを感じながら。 「なんで外に出た」 「え、えっと、それは…」 「遼ちゃん、背中!」 どうやって言い訳をしようか、それに意識を奪われていたのか、背中を隠すということが疎かになってしまい、十瑚に背中を見られてしまった。 「すごい出血じゃないか!」 「すぐに手当をしなきゃ…!」 「え、大丈夫だって、このくらいなら…」 「駄目ですよ!」 夕月が私の傷口に触れようとする。 何をしようとしているのか分かった私はすぐに夕月から距離をとる。 「遼さん!」 「駄目!こんな傷、大したことないから!」 「何言ってるんですか!凄い出血量なのに…」 「いいの、どうせ私はもう少しで、!」 消えるのだから、そう口にする前に視界がぐにゃりと歪んだ。 血を流しすぎたのだろうか、そう考えつつ、私の思考はぷつりと途切れた。 私は次の日、タイムリミットが残り10日になった日に、目を覚ました。 *2011/09/27 (修正)2015/12/28 |