あれは何時だっただろうか。 そうだ、私が戒めの手として今世の戦いに参加し始めたばかり頃だ。 まだ、皆と普通に、暮らしていた頃。 これから、まだまだ長く続く人生という名の道を私なりのペースで歩んでいたときに、いきなり、何の予告もなく現れた。 ▽▽▽ 「っ、…」 頭から生温い液体がぽたりと重力に従って落ちていき、それは地面に吸い込まれ、赤黒くその場に色を残した。 血を流しすぎたのか、くらりと視界が歪み、思考が淀む。 身を裂くような激しい痛みの中に、ゆったりとした睡魔を感じ、これは生命の危機だと身体が告げているが、この場ではどうしようも出来ない。 そんな血に塗れた私を見てニヤリと口の端を上げ、嘲笑うかのように私を切りつけた日本刀にもにた刀に付着した鮮血を舌で舐めとるのは悪魔だ。 ただの悪魔ではない、上級悪魔だ。 桁外れに強い、ルカと同等、もしかしたらそれ以上かも知れないと思うほどに、目の前に立っている上級悪魔は強かった。 「…もう終わりか?」 退屈にそうにため息を吐き、冷めた目でこちらを伺う上級悪魔。 がっかりだ、とでも言いた気に大袈裟な身振りをし、肩を落とす。 まだ戦いに参加したばかりの新人だと言っても、私が戒めの手であることには変わりはない。 「っ…!」 悪魔が戒めの手を生かす理由なんてない。 私に待ち受けるのは残酷な死。 残念だが、私に残された道はない。 もう終わりだ、そう思ったら体の力が徐々に抜け、膝から崩れ落ちた。 私が、私の考えが甘かったんだ。 1人で上級悪魔に立ち向かおうなんて馬鹿な行動を取ったから、こんな事になったんだ。 「…、殺すなら、殺しなさい!」 悪魔に殺されるから、もう2度と転生は出来ないだろう。 嗚呼、皆ともう会えないんだ。 そう思うと死にたくない、と醜く生にしがみつきたくなるが、もうどうにもならないと冷静に思考が告げている。 「お前、いい目をしてるな…、いいだろう、お前を生かしてやろう、ただし…」 悪魔がゆっくりと私の額に手を翳した。 その瞬間、意識が朦朧とし、瞼が重く感じるようになった。 「、何…?」 「呪いだよ、呪い…、お前は次に目覚めてたから2週間しか生きられない」 「っ、に、しゅうかん…?」 「呪いを解く方法は1つだけある、…仲間を、戒めの手を1人殺すことだ!」 その言葉を最後に、私の意識はぷつりと途切れた。 次に目が覚めてから2週間。 それが私の命の期限だ。 これが、始まりであった。 *2011/09/08 (修正)2015/12/18 |