04


昇降口から出て、校門へと向かう。
校庭に咲いていた桜並木もすっかりと散り、段々と青く色づいてきている。
時の流れを感じながら、校門へ近づいた瞬間に、強い風が吹き、思わず目を伏せる。
歯と砂埃が舞い、目を閉じようとしたその瞬間、どこか懐古を感じさせるような声で私の名前が呼ばれた。


「…花梨?」

ゆっくりと風が収まり、伏せていた視線を上げる。
校門の手前で、驚いた表情を浮かべている黒髪の青年。
その青年には幼い頃の幼馴染みの面影が残っていた。


「か、な兄…?」

私が懐かしい呼び名でそう呼ぶと、青年改め、奏兄は嬉しそうに表情を和らげた。
私は十数年ぶりに会った幼馴染みの成長ぶりに驚きを隠せなかった。


「久しぶりだな、花梨」

優しい眼差しで微笑む奏兄。
その笑顔は変わらず、幼い頃の記憶のままだ。
奏兄は優しく、私を抱き締めてくれた。


「奏兄、久しぶり!」

十数年ぶりの再開に、嬉しくなって私も奏兄に抱きついた。
暖かい腕の中、逞しくなった奏兄の体に、お互い成長したんだなと、少しだけ悲しくなった。


「奏兄、どうしてここが分かったの?」

「院長先生に教えて貰ったんだよ」

「成程…、でも急だったから驚いたよ、どうかしたの?」

私は奏兄の突然の訪問に、何かあったんではないかと思い問い掛けた。


「実は、夕月が院を出たんだ」

「夕月が、どうして…」

「夕月に腹違いの兄が見つかってね、一緒に暮らすことになったらしい」

「…そう、なんだ」

良かった、夕月には腹違いでも家族がいたんだ。
迎えに来てくれる、家族が。
良かったと喜ぶ反面、どこか悲しかった。


「用はそれだけだよ」

「え、そうなの…?」

わざわざこれだけを伝えに、ここまで来てくれたのだという。
申し訳ないと思ったけれども、それよりも会いに来てくれた事がとても嬉しかっだ。


「それに、花梨の顔も見たかったからね」

「奏兄、ありがとう…」

奏兄の優しさに、頬が緩んだ。
他愛もない話を少しした後、連絡先を交換してから、奏兄は帰っていった。



▽▽▽



「ただいま」

学校を終え、家に帰ってローファーを脱ぐ。
するとお義母さんが玄関まで出てきてくれて、おかえりと挨拶を返してくれた。
だが、お義母さんの表情はどこか暗く、いつもの明るい笑顔には元気が見られなかった。
そのまま促され、リビングへと足を運んだ。


「どうかしたんですか…?」

「…電話が来たんだ」

「電話?」

「…建築会社から、この家の下の地盤が緩んでいるって、な」

何処か戸惑いがちに、そう告げるお義父さんに、違和感を覚えた。


「そうなんですか…」

「それで、申し訳ないんだけど、花梨には俺の親戚の家に、行ってもらうことになったんだ」

「親戚、ですか…」

「えぇ、ごめんなさい、だから花梨には明日から東京に行ってもらうことに、なるわ」

何故か悲しげにそう告げるお義母さん。
私は戸惑いつつも、すぐに笑顔で大丈夫ですよと答えた。


「…ごめんなさいね、花梨」

まるで2度と会えなくなるかのように、涙を浮かべるお義母さんに、私の胸の奥がざわついた。
きっと、地盤が緩んでいる、という話は嘘なのだろう。
何かがあって、私は東京へ行かなくてはならないのだ、そう感じ取った。
この時から、もう始まっていたのだ。



*2011/09/11
(修正)2015/12/20




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