再び


奈津が何かを成し遂げると宣言してから1日が経った。
あの宣言の後から、奈津が可笑しい。
俺に対してかなり挙動不審だった。
獄寺と山本は理由を知っているみたいで、俺だけ知らないのか…と子供じみた嫉妬をした。
奈津に理由を聞いてみよう…、丁度今日の宿題について話もあったし、そのついでに聞こう。
教室を見回すが、奈津の姿は無かったので廊下に出た。
すると見慣れた幼なじみが少し落ち込んでいる様子で歩いていた。


「あ、奈津」

声をかけ、奈津に近寄る。


「つ、ツナ君!」

奈津は俺の姿に気づくと急に挙動不審な態度を取った。
奈津の様子が可笑しいのには、どうやら俺が関係しているらしい。
言いようのない不安が胸を埋め尽くす前に奈津に話を振る。


「あのさ、今日の宿題…って、どうかした?」

「あ、え、何で?」

「何だか上の空だし、何かあったの?」

やはり挙動不審な奈津の様子に思わず眉を寄せた。
歩いている時も上の空だったし、俺の前では挙動不審だし。
宿題よりもこちらの要件が気になってしまい、直球で聞いてみた。
すると奈津は慌てたように、何でもないよ!と言うが取り繕っているのがバレバレだ。
何があったのだろうか、そう思っていると、奈津が静かに口を開いた。


「あ、あの!ツナ君!」

「どうかした?」

奈津が何かを決意したかのように、緊張した趣きで口を開いた瞬間、第3者の声がそれを遮る。
ようやく奈津が何かを話してくれると、それを待っていたのに、どうしてこのようなタイミングで声を掛けてくるのだろうか。


「沢田先輩、あの、お話があるんですが…」

言動からして後輩だと思われる彼女は長い睫毛に縁取られた大きな黒い目を少しさ迷わせ、頬を赤く染めている。
その表情を見て、彼女が何を伝えに来たのか分かってしまい、思わず表情を歪めた。


「ごめん、今話の途中だから」

「あ、私の事はいいから!話、聞いてあげて…?」

「でも…」

「大した事じゃ無いから、ね?」

「…分かった」

俺は眉を下げて奈津の顔を見る。
無理して笑っているのがバレバレで、こんな表情をさせたかった訳では無いのに、そう思いながら、後輩であろう彼女についていく。
その道すがらでも考えるのは先ほどの奈津の事。
何を話そうとしてくれたんだろうか、俺に関係ある話だったのか?
聞けなかった話の内容を推測していると、昇降口についた。
どうやら告白スポットとして有名な中庭に行きたいらしい。
短く息を吐き、上靴から外靴に履き替えた。



▽▽▽



大きく成長した木々が空に手を伸ばすかのように佇んでいる中庭。
ここは人気がなく、独りになりたい時や、他人に聞かれたくない話をするのにうってつけだ。
彼女はふと立ち止まり、赤くなった顔を隠すように俯いた。


「…で、話って何?」

話始めない彼女に痺れを切らし、俺は言葉を紡いだ。
彼女はぴくりと体を反応させ、少し潤んだ黒い目で俺を見る。
幼さが残る顔立ちは愛らしく、可愛らしいとは思う。


「私、…せ、先輩の事が好きです!」

嗚呼、彼女が奈津だったら良かったのになんて酷い考えが頭を過ぎった。
奈津の隣を独占しているのに、それだけでは物足りないのだ。
なんて欲張りなんだろう、自身の浅ましさを嘲笑う。


「ごめん、俺好きな人いるから」

そういうと彼女は目に涙を溜めて、とても悲しそうに顔を歪ませる。
少しの申し訳なさが胸を締め付けるが、好きな人がいるのに付き合うなんてことは出来ない。
ごめん、と一言告げてから、俺は中庭を後にした。



*2012/06/26
(修正)2016/01/02



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