▼ 告白
「沢田くん!あの…、ずっと好きでした!良ければ付き合って下さい!」
どうして人はろくに話もしない人を好きになれるんだろうか。
俺には理解出来ない。
「ごめん、俺好きな人がいるから」
いつも通りの台詞を返すと俺の前に居る着飾った見知らぬ彼女は無駄に化粧を施した睫毛に涙を纏わせる。
振られないとでも思ったのだろうか。
よくもまぁそんなに自信が持てるものだ。
「…じゃあ俺、もう行くから」
折角の昼休み、本当なら4人でお弁当を食べると言ういつもの約束があった。
天気が良いので中庭で食べるか、屋上で食べるか話していた所にこの彼女が話があると言って来たのだ。
なんとタイミングの悪いことだろうか。
俺は足早にこの人気の無い廊下から立ち去ろうとするが、彼女が「待って!」と俺の腕を掴んで来た。
「…まだ何かあるの?」
きっと今の俺は酷い顔をしているだろう。
あいつには見せれないような、そんな酷い顔。
「わ、私…!私じゃ駄目なんですか!?」
世間一般で見たら綺麗系の顔。
潤んでいる大きな目と赤くなった頬。
この顔だったら誰でも落ちるとは思う。
だけど俺は好感を持てない、寧ろ嫌悪感が湧き出してくる。
「…聞こえなかった?俺、好きな人がいるから。」
「っ…、ご、めんなさい」
いつもよりオクターブ低い声を出せば彼女は萎縮し、涙を流しながら去っていった。
溜めていた息を吐き、この感情を消し去るためにあいつの顔を思い出す。
嗚呼、早くあいつの顔が見たい、だなんて俺らしくない。
手に持っていた購買で購入したパンを持ち直した。
屋上か中庭が、どちらへ行っただろうか。
でもあいつなら、奈津ならきっと。
俺の足は自然に屋上へと向かっていた。
▽▽▽
屋上へと続く扉を開けた瞬間、強い風が吹き付けたので右腕て風を防ぎ、目を細めた。
後ろで寂れた扉がゆっくりと音を立てて閉まった。
風が収まったので周りを見渡す。
そして屋上の隅の方で座っている3人の姿を発見した。
「あ、3人とも此処に居たんだ」
声を掛けると、3人とも俺の方を向いた。
獄寺はいつも通り不機嫌そうな表情で眉を寄せ、山本は山本で爽やかな笑顔を浮かべている。
そして幼馴染の奈津は大きなガラス玉のような瞳でこちらを見つめている。
その瞳の中に吸い込まれそうで、俺は無意識に拳を握り締めた。
いつからだろうか、俺が女嫌いになった時でも、奈津の隣だけはいつもと同じように心地良く感じるようになったのは。
「ツナ君…」
恋とは不思議な物だ。
声を聞くだけでこんなにも胸の鼓動が高鳴るのだから。
確かあれは中学生の頃だっただろうか、奈津に好意を寄せていることに気づき、俺はどう接していいのか分からなくなってしまった。
その時の俺はダメツナ、というあだ名を付けられるほど駄目な奴で、そんな俺を変えなくては奈津の隣に居られないと思い、完璧な幼馴染を演じることにした。
奈津から頼られる人になるには、完璧な幼馴染でなくてはならないと、そう考えたから。
完璧な幼馴染を演じ、奈津の隣を独占した、誰も近づけないように努力をしたのだ。
そうして今も俺は奈津の隣を独占している。
「ツナ、また告白されてたのか?」
山本の問いに俺は思わず眉を寄せた。
折角忘れかけていたのに、また思い出してしまった。
「あぁ…、全く切りがないよ」
「沢田、お前まさか付き合うことになったとか言い出すんじゃねぇだろうな?」
「まさか、そんなわけ無いだろ、俺が女嫌いな事、知ってるだろ?」
なんで好きでもない人と付き合わなくてはならないんだ。
俺は…、そう思いちらりと奈津を見る。
奈津は何やら獄寺と楽しそうに話している。
「…なぁツナ、奈津に告白しないのか?」
山本が小さな声で、呟くようにそう俺に問いかけた。
山本は、俺が奈津に好意を抱いていることを知っている、否知っていると言うよりはばれたという方が正しいかも知れない。
中学生の頃、突然「ツナって本当に奈津の事、好きなのな!」と爽やかすぎる笑顔で言われ、俺は飲んでいたお茶を飲み損ね、噎せてしまったことは未だに忘れられない。
どうして分かったのかを聞いても、「んー?お前ら見てたら分かるって!」と笑顔で言われ、それ以上聞き返せなかった。
「…まだ、しないよ」
情けない話だが、今のこの関係が壊れるのが怖いんだ。
幼馴染のまま、このままだったら奈津の側にいれる、けれどももし、俺が告白して関係が崩れてしまったら?
俺は奈津の隣が欲しくて、奈津の1番になりたくて、なんで強欲なんだろうか。
「分かった!そんなに言うなら、1週間、1週間以内にする!出来なかったら諦めるから!」
強欲な自分を嘲笑っていた時に聞こえてきた奈津の声。
何を諦めるのだろうか、話が全くわからない。
「何の話?」
「奈津が頑張るってことなのな」
「頑張る?」
俺には、よく分からなかった。
*2012/06/22
(修正)2015/12/25
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