「…眠い」

本日最後の授業、数学。
どうして数学が最後なのだろうか、苦手な教科だから眠たくなってしまうし、最悪の一言につきる。
欠伸を噛み殺しながら、涙で歪んだ視界で黒板を睨む。


「問5を…佐藤!」

あーあ、可哀想に、佐藤くん。
教科書に応用と書かれた問題を当てられた佐藤くんにご愁傷様という意味を込めて目伏せをする。


「…3?」

「お、よく解ったな!」

いやいやいや、佐藤くん絶対に当てずっぽうだよね?
適当に言ったら当たったパターンだよね?
だって今の佐藤くん「まじかよ、当たっちゃったよ」って自分でも吃驚してるし。


「じゃあ佐藤の隣、問6行くか!」

…因みに佐藤君の左は窓、右は私だったりする…って事は私か!
あー、全然分かんない!


「ちょ、佐藤くん、教えてよ」

「は、こんな問題分からねぇよ」

「やっぱりさっきのは当てずっぽうか」

やばいやばい、全然分からない。
こんなの社会に出でも役に立たないよね?
数学なんて足して引いて掛けて割れれば良いんだよ!
と、言ってみたものの、分からないものは分からないので正直に口を開く。


「わ、解りません」

「…そうか、じゃあ鈴木!」

え、それだけ?
私は驚きで瞬きを繰り返す。


「…解りません」

「よく考えろ!」

なに、のよ私と鈴木くんの扱いの差!
…あ、私が恭弥の幼馴染みだからか、納得納得。


「…にゃろう」

「ごめんよ鈴木くん、悪気は無いんだよ、あははは」

「腹立つな」

「じゃあ幼馴染み交換する?」

「遠慮する」

「だよね」

ですよね。
こういう時は恭弥の幼なじみで良かったなぁって思うよ、うん。
恭弥に感謝しつつ、引き続きシャープヘンシルを持ち直して黒板を見つめた。



▽▽▽



「終わったー!」

数学が終わり、固まった体を解すようにうんと身体を伸ばした。
後は帰宅するだけ、っと。
あ、そう言えば沢田くんと約束してたな。
沢田くん、放課後教室で待っててって言ってたけど、沢田くん私の教室知ってるのかな?


「弥生ー、呼ばれてるよ!」

友人が呼ぶ方に視線を向ける。
教室の前扉の方に友人は立っており、その後ろには沢田くんが視線をさ迷わせながらも立っていた。
その頬には朱が差しており、上級生のクラスに来て緊張している様が伺える。
私はそんな彼の姿に苦笑しながら、扉へと歩み寄る。
友人に礼を言ってから、沢田くんに話し掛ける。


「よく私の教室分かったね」

「元々知ってたんで…」

「…え?」

「あ、いや、その……」

沢田くんは言いづらそうに視線をさ迷わせた。
その表情にピンと来た、そうだ、私校内ではある意味有名人だから、知られているのかも知れない。


「あの、スーパーに寄っても良いですか?」

「あ、うん」

自動販売機でいいのに、なんて思いながらも、沢田くんに任せることに。
…ということは、途中まで一緒に帰ることになるのかな。


「じゃあ行きましょう!」

にかっと笑う沢田くんが可愛らしく、思わず笑みを零した。



*2012/08/08
(修正)2015/01/05
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