「ふあ…」
道のど真ん中で欠伸をかみ殺しながら学校へと向かうために足を動かす。
昨日、遅くまでテレビ見ちゃったから眠いな、…生物と倫理の時間寝ようかな、なんて考えていると再び欠伸が零れた。
欠伸をしながら寝不足で重い体を動かし、足を進めているとようやく我が並盛中学校の校門が見えてきた。
相変わらず柄の悪いリーゼント頭がずらりと並び、登校してくる生徒たちを鷹のように鋭い目で違反を犯していないか、くまなくチェックする。
そんな強面の集団に見られ、怯えながら生徒たちはコソコソと足早に校門をくぐる。
最高学年となった今では見慣れた光景だ。
いや、恭弥の幼なじみの私だからこそ、こんなに冷静にこの光景を見ていられるのかも知れない。
「弥生さん、お早う御座います!」
副委員長の草壁くんを筆頭に、他の風紀委員たちも体を45°、きっちりと倒して私に挨拶をしてくれた。
当初は恥ずかしくて止めてくれと心の底から願っていたが、今はもう諦めているので、小さなため息しか出て来ない。
「お、おはよう…」
引きつってしまった笑顔のまま足早に校門をくぐる。
はぁと今度は大きなため息をつき、玄関へと向かう最中に誰かを待っているようにソワソワと視線を忙しなく動かしている人を見つけた。
その人と目が会うと、あっと小さく声を零し、笑顔でこちらに走ってきた。
「弥生先輩!」
あぁ、昨日恭弥にボコボコにされていた、沢何とか君だ。
すすき色の髪がふわりと揺れるのを他人ごとのように見ていた。
「あ、えと……沢、田くん?」
「名前、覚えてくれたんですか!?」
あ、沢田くんで合っていたらしい。
良かった、あんまり自信は無かったんだけどね。
「…私に何か用?」
「あ、改めて昨日のお礼がしたくて…」
沢田くんは少し俯き、頬を赤く染めた。
私が上級生だから緊張でもしてるのかな?
その可愛らしい仕草に、思わずこんな弟がいたら…なんて想像をしてしまった。
「お礼なんて別にいいのに…」
「いえ!そんなわけには…」
困ったな、なかなか引いてくれない。
沢田くんはどうにかして私に恩を返したいらしい。
そんなのいいのに、さて、どうしようか。
「…あ、じゃあジュース奢ってよ」
「へ?」
沢田くんの間の抜けた声と顔が可愛らしくて笑ってしまった。
ジュースなんかで良いんですか?とどこか不満そうに言う沢田くんに、私はジュースが良いのと譲らなかった。
中学生、しかも年下にそんな高い物を要求するなんて有り得ない。
その前に私的には何にも要らない。
だけどそれでは沢田くんの気がすまないようなので安価なジュースにしたのだ。
「あ…、だったら放課後、教室で待ってて下さい!」
「うん、分かった。待ってるね」
私がそう返事をすると顔を赤くし嬉しそうに目をキラキラさせる沢田くんが子犬に見えてきた。
尻尾まで見えそうで…私、こういう可愛い人に弱いんだよね。
「じゃあ!放課後にまた」
「うん、また放課後にね」
沢田くんが手を振って走って行ったので小さく手を振り替えした。
あぁ、可愛いなぁ…あんな弟が居たら毎日愛でるのに。
*2012/07/08
(修正)2016/01/03
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