私と“幼馴染み”の話をしよう。
その幼馴染みとは小学生の頃、いや小学校就学前の幼子の時から見知った顔になっていた。
家が近く、よく遊んでいた記憶がある。
小学校も中学校も同じだが、ある意味同じ学校生活を送ってはいなかった。
何故なら彼には学年やクラス、ましてや義務教育となっているはずの授業すらないのだから。
彼はいつも、上等な作りになっている応接室に居座っているのだ。
ここまで説明して、私の幼馴染みが誰なのか、まだ分からない人がいたら、きっとその人は並盛に住んでいる人ではないだろう。
私の幼馴染みは、並盛で最強と謳われている風紀委員長の雲雀恭弥だ。
▽▽▽
「弥生さん!」
綺麗に整髪料で整えられたリーゼントが視界に映り、短く息を吐いた。
また恭弥絡みかと、日常茶飯事となったこの光景を見て再びため息を零した。
ちらりと、勢いよく開けられた扉に手をかけて、乱れた息を整えてる学ランを着こなした男子生徒を視界に入れる。
「…草壁くん、今度は何?」
男子生徒、草壁くんに呆れ顔で問えば、草壁くんは気まずそうに言葉を紡いだ。
どうやら、新入りの風紀委員たちが恭弥の機嫌が悪い時にたまたま居合わせてしまい、一方的にボコボコにされているらしい。
「…で、なんでまた私なの」
「弥生さんしか委員長を止められないんです…」
草壁くんは赤く腫れている頬に軽く触れた。止めようとして恭弥にトンファーで殴られた、と言う所だろうか。
私は大袈裟に本日何度目かも分からなくなったため息をついた。
そう、今日は朝にも恭弥による騒動があり、先程と同じように草壁くんが私の教室に来たのだ。
朝は遅刻して来た生徒をボコボコにしていた所を止めたのだが、恭弥の機嫌はまだ治ってなかったらしい。
「…で、恭弥はどこにいるの?」
仕方なく席を立ち、机の上にあった教科書を鞄にしまってから草壁くんに問う。
草壁くんの安堵した表情を見ると、草壁くんも苦労してるんだなぁと実感した。
▽▽▽
「恭弥」
「…弥生」
頬についた返り血を拭い、トンファーを光らせるその姿はまさに悪魔か。
校舎裏、日陰が多く人気が無い場所で、恭弥はトンファーを振り回していた。
すでに数名の風紀委員たちが倒れていた。
ご愁傷様。
「なんでそんなに機嫌悪いの」
「…別に」
恭弥は満足したのか、それとも気が失せたのか、どちらかは分からないがトンファーをしまい、いつもの仏頂面を見せる。
どうしてこんなにも機嫌が悪いのだろうか。
「…恭弥」
「…弥生、今朝草食動物と群れてたよね」
「…草食動物?」
はて、草食動物とは誰の事だろうか?
今朝、今朝といえば、もしかして遅刻して恭弥にボコボコにされていた男子生徒の事だろうか?
「…もしかして、沢田くんとかって子?」
「ただの草食動物だよ」
「群れてなんか無いよ、ただ名前聞かれて、お礼を言われてただけ」
それ以上でもそれ以下でもないわと言えば、恭弥は何か考えるように地面を見つめる。
いつの間にか草壁くんがボコボコにされた生徒たちを運び出したらしく、私と恭弥だけになっていた。
「もう、草食動物に関わらないでね」
「…まぁ、もう会わないだろうし」
同じ校内だとしても、沢田くん?は2年生(だったはず)、私は3年生。
会うことなどないだろう。
私の答えを聞いて満足したらしい恭弥は、機嫌を治したらしく、そう…と短く答えてから、校内へと踵を返した。
なんであんなに機嫌が悪かったかのかは、未だに分からない。
*2012/06/16
(修正)2016/01/03
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